4章 理不尽な罪状 (1/2) ~ 独裁者の玉座

4 理不尽な罪状

 

 

謁見の間に行くにあたって、客は必ず、廊下のようにつらなった小部屋をいくつも通り過ぎなければならない。それぞれの部屋には、神話を題材にした絵や彫刻などの美術品が飾ってある。等身大の翡翠の像、黄金のレリーフ、細密画の描かれた大きな白磁の壷。どれもほかでは目にすることのできない手の込んだ逸品ばかりだ。それらはまるで、謁見の間を訪れる客に、これから会う王の権力を誇示するために置かれているようだった。

ララはマヌの民族衣装を着せられて、謁見の間の扉の前に立っていた。

待たされているあいだ、絢爛豪華な大扉のむこうから、マヌ語で言い争う声が聞こえた。大勢いるようだ。各々が一斉に好き勝手な主張をしているので、一人一人の声が聞きとれない。

あとからカラスが入ってきたので、ララは思わず目をそらしてしまった。

まだ怒ってるかな……。

カラスも民族衣装に着がえさせられている。が、着丈があっていなくて、ズボンも袖もつんつるてんだ。マヌ人は全般的にチタニア人よりも小柄なようだ。カラスはララの隣に並び、なまりのきついトゥミス語を使って、そばにいる官吏に聞こえないように囁いた。

「魔法の石のこと、聞かれたか?」

ララは首を横に振った。

「盗まれたって言ってあるから、余計なことしゃべるなよ」

それっきり、おたがいに目もあわさず、口もきかなかった。どちらも腹立たしく思っていることを蒸し返しはしないが、かといって謝りもしない。気まずい沈黙が、壁のように立ち塞がった。

身支度の最後の仕上げに、服に鈴をつけた若い巫女がやってきて、邪気を払うというつやつやした葉のついた枝で、頭のてっぺんから足の先まで叩かれた。

しばらくして、扉が開いた。

ララは中を見て目を丸くした。

さっき中庭で別れたばかりのアシュラムが、玉座に座した王の隣で、なにかしゃべっていたからだ。その反対側にも一人立っていて、やはりまくしたてるようになにかしゃべっている。こちらは老人で文官の格好をしていた。両側の壁にそって、位の高そうな官吏が数人並んでいる。警護にあたる近衛兵が、入り口と王の身辺に立って目を光らせている。全員による討論は終わったのに、王の両脇にいる二人だけが、しつこくしゃべりつづけているようだった。

アシュラムは側近中の側近だったのだ。王は双方にむかって手で払い除けるような仕草をし、黙るよう合図を送った。

側近を黙らせ、マヌ国王は、ようやく客人のほうを見た。

〈入れ〉

ララは王の姿を見て、さらなる衝撃を受けた。予想以上に人間離れしていたからだ。
次のページ

4章 理不尽な罪状 (2/2) ~ 無礼者の生死のゆくえ

カラスの顔が一気に青ざめた。

「お許しを!」

〈………!〉

カラスが叫んだのとほぼ同時に、マヌ語で別の声がした。

「お待ちください、陛下」

アシュラムが恐れ多い様子で、王の前にひざまずいた。王は明らかに不服そうに、

「どういうつもりだ?」

ララに配慮したのかアシュラムがトゥミス語で話しかけたので、王もトゥミス語だった。二人ともマヌ人だが、トゥミス語で話しつづけることはなんの苦でもないようだ。

「出すぎたまねを致しまして恐縮ですが──娘は確かに罪人に違いありませんが、この場で裁判も取り調べもなしに死刑では性急すぎます」

「性急?」王は鼻で笑い「これでも充分すぎるほど筋道を通してやったのだぞ。クレハを殺したのなら、裁判などしなくても刑は決まっている。ましてや、命令に背き、謝罪もなしでは酌量のしようもない。そこの男は衛兵に危害を加え、私を欺こうとした」

「お怒りはごもっともです。しかし、まだクレハ様は亡くなられたと決まったわけではありません。事実なら許しがたい大罪ですが、今はクレハ様の安否がまるでわからない状況なのです。

この娘の母親のティミトラは、国と陛下のために戦った戦士でした。どこのだれともわからないならず者ならいざ知らず、陛下に忠義をつくした者の娘の腹をいきなり裂くとは、不義というものではございませんか? 魔石を取り出すだけならほかにも方法があるはずです」

アシュラムは殺気だつ王にむかって、冷静な面持ちで根気強く説明した。するとララたちが部屋に入るまで口論していた老人が、すかさず異議を唱える。

「近衛隊長といえど、陛下直々のご命令に『待て』とは無礼な。陛下の裁きが不誠実だと申すのか。

陛下、この者は自分が混血だからチタニア人に同情しているまでのこと。隊長の言うことに耳を傾ける必要はございません」

アシュラムは近衛隊長だったのだ。肌の色も瞳の色もほかのマヌ人と違っていたので、混血と聞いて、なるほどと思った。

「血とは関係ありません」

アシュラムはエメラルドグリーンの瞳で、黒い瞳をした老人をにらんだ。

「意見があるなら言え。血の話は慎め」

王は二人の側近にむかって言った。老人は不満げに口をつぐんだ。
次のページ