0章 彼女の正義 (2/9) ~ 暗中模索

 

そうこうしているうちに、ようやく古城の裏門にたどり着いた。石柱の陰から様子をうかがうと、二足歩行の化け物が四体、のっそりとした巨体を左右に揺らしながら、背の高い黒い扉の前をうろついている。普通の男よりも頭二つほどは大柄だろうか。潰れた鼻と牙はイノシシのようで、湿った皮膚の所々が、醜いイボに覆われていた。手にはプリモス製の銃が握られている。

この怪物たちはキルクークの手先だ。知能は低くて動きは緩慢だが、打たれ強くて怪力だった。それ自体に生物としての自主性はなく、脳に寄生している別の生物を通して、キルクークの命令に従っているようだ、と学者たちは説明していた。

「一気に突っこむぞ。なるべく頭をねらえ。頭の奇生生物を殺らないと、体が死んでも動く」

グレナデンが言い、三人は剣を抜いた。怪物たちはじっとしていられないのか、あまり目的のなさそうな愚鈍そうな動きをつづけている。

「今だ!」

四体とも目を離した隙に、一斉に距離をつめて襲いかかった。炎の魔法が使えるグレナデンは、四体の怪物に火を放ち、頭部をねらって剣を振り下ろした。紅蓮の炎が爆ぜて、目の前を明るくした。

イスノメドラも細剣を手に、不慣れを感じさせないような器用さで敵を牽制しながら、魔法を放っている。彼女は稲妻を操ることができる。青い電光が剣先から、指先から、宙を舞うように揺れる髪の先からもほとばしった。

リュンケウスは残念ながら魔法は使えない。剣だけを頼みに、グレナデンに銃口をむけて撃とうとしていた怪物を、背後から斬りつけた。斬られた怪物はのけぞって、銃を乱射した。紫色の光の筋が銃口から一直線に走り、近くにいた別の怪物の両腕が切断される。そして今度は、そちらの怪物がのばした太い舌が、リュンケウスの体に蛇のように巻きついてきた。捕らえた獲物をひょいと持ちあげると、牙の生えたガマガエルのように大口を開く。

飲みこまれる、と思ったとき、イスノメドラの放った青白い電光が、すんでのところで怪物の脳天を直撃した。リュンケウスは地面に叩きつけられ、背中を斬りつけてとどめを刺し損ねた敵の頭を、グレナデンが叩き斬った。そして、

「頭をねらえって言ったろ!? 聞いてねえのかよ!」

ねぎらいの言葉はかけずに、怒鳴りちらした。

「……すいません」

自分がとっさに斬らなければ、おまえは撃たれてた──そう言いたいのをこらえて、リュンケウスは謝った。

「まったく」と、グレナデンは舌打ちした。

イスノメドラは門の扉を押してみて言った。

「閉まってるわ」

奇妙な紋様が彫りこまれたプリモスの扉に、管やら歯車やらが連結されている。三人で試しに体当たりしてみたが、鉄壁を押しているのと変わらなかった。グレナデンが火炎を投げつけて扉を破壊しようとしても、傷一つつかない。

「畜生っ」

と、グレナデンは鈍く黒光りする扉を蹴飛ばしてから、痛そうにつま先を押さえて跳ねまわった。リュンケウスはそれを見て含み笑った。

イスノメドラは我関せず、複雑な歯車や管をたんねんに調べている。

「動力がわからないけど……この扉、機械仕掛けみたい。ちょっと耳ふさいで下がってて」

男二人は顔を見合わせ、言われた通り耳をふさいで後ろに下がった。

彼女は天にむかって両手を広げた。

「神様! 私に力を……!」

そう叫ぶと、暗雲うずまく夜空から、大扉にむかって雷が落ちた。目もくらむような火花が散り、すさまじい轟音が鳴る。リュンケウスが思わずつむった目を開けると、歯車がひとりでにまわりだし、重々しい扉が左右に滑るよう開いていった。

「嘘だろ……」
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