0章 彼女の正義 (2/9) ~ 暗中模索

「信じられねえ! 天才だよ」

グレナデンは歓声をあげた。言われた本人はニコリともせず先に進んでしまっている。

「おまえも少しはイスノメドラを見習え」

リュンケウスは無茶なことを言われていらだっていた。俺は魔法が使えないのに、どう見習えっていうんだ?

中に入る前に、怪物の手から銃を取った。黒くひんやりとした銃身は、手首から肘くらいまでの長さだ。銃身の中程に小さな紫色の印のようなものが、一つ光っている。片手で扱えない大きさではないが、結構ずしりとしているので、ぶれないようにねらいを定めるなら両手のほうがいいかもしれない。魔法使いの二人はあまり関心がないようだったが、魔力のない人間にとって、飛び道具の存在は重要だ。

城の中はまっ暗で、入るとすぐに螺旋階段が上にのびていた。壁も床も天井も、なにもかも外壁と同じプリモス製だ。しかも溶接されたような箇所は見当たらず、すべてが巨大な一枚板で造られているかのようだった。外光をとり入れる窓は一つもなく、グレナデンが掲げ持った松明だけが行く手を照らしていた。冷え冷えとした漆黒の闇に包まれて、外で風がうなる音だけかすかに聞こえてくる。

登りきったところで、道が二手に分かれていた。

「どっちにする?」グレナデンが言った。

イスノメドラは目を閉じ、祈るような姿勢で、首から下げていたペンダントを握りしめた。一見すると、いびつな水晶のかけらように見えたが、彼女が言うには、それはユニコーンの角のかけらなのだった。昔、この城の近くの草原で、傷ついたユニコーンを助けて、そのお礼に欠けた角をもらったという。この角のかけらには道を指し示す力があるらしい。

グレナデンはこの話を聞いても、疑わしげな表情をして黙っていただけだったが、ユニコーンは昔話や神話にしか出てこない生き物だ。リュンケウスは普段、この手の妖精を見たとか幽霊を見たとかいう類いの話は本気で受け取らないようにしている。だがこの巨大な城の内部の構造を知る者がいない今、彼女の言葉を信じる以外に手がかりになりそうなものはない。

「こっちよ」

イスノメドラは確信的な表情で、右のほうを指差した。先はやはり完全な暗闇で、なにも見えない。それでもその通りに進んだ。

何回かそんなことを繰り返し、どんどん城の迷路の奥深くへと足を踏み入れていった。城といっても無闇に入り組んだ通路ばかりで、どこまで行っても、どこかに行き着くということがなかった。そのうち柱が立ち並ぶ天井の高い広間に出た。外の音はもう完全に聞こえず、静まり返った空間に、足音が響く。密封された建物の中なのに、空気がよどんだ感じはしなかった。そのままの松明の明かりでは、広間の隅々まで見渡すことができない。

グレナデンが魔力で火を操って大きくすると、何十体もの怪物に取りかこまれていることに気づいた。

掲げた松明を、グレナデンは大きく弧を描いて振りまわした。そこから火の玉が次々と敵の体にに飛び移り、あたりが一気に明るくなる。同時にイスノメドラが放った電撃が瞬いた。幸い、今度の相手は銃を持っていない。

拾った銃の使い方はわからなかったが、リュンケウスはそれらしい引き金を引いてみた。

金属を素早く引っ掻くような耳慣れない小さな音がして、紫色の光線が発射された。その光を当てると、敵の胴体がおもしろいほど簡単にまっ二つになる。効果は抜群だ。音は光線自体が発しているというより、銃の本体からでる作動音のようだった。引き金を引いているあいだは光線が出つづけるので、小刻みにもねらい射てるし、光線を出したまま動かして敵を切断することもできる。頭部を破壊するために、リュンケウスは引き金を引いたまま、二体、三体と頭をねらって光線を行き来させた。

ところが、うまくいったと思ったのもつかの間、今度は急に光線が出なくなった。わけがわからず見てみると、さっきまで光っていた印のようなものが点滅している。

手を止めた隙に敵が襲いかかってきたので、リュンケウスは乱闘のまっただ中から身を引いた。

すると突然、足場が消えた。

立っていた床が開いたのだ。だいぶ長いこと落下して、水面に叩きつけられた。いったん沈んでもがきながら顔を出し、まわりを確認すると、そこは先ほどよりもさらに広い空間のようだった。明かりがなくて全体の構造はわからないが、音の響きで、広がりがある、というのはわかる。
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