0章 彼女の正義 (2/9) ~ 暗中模索

見あげると、ぽつんと空いた小さな穴のむこうに、電光と、対岸の火事のような炎がちらついていた。かなりの距離だ。

胸の上まで水に沈んでしまうが、底に足はつく。水は妙に生温く、普通の水よりも肌にまとわりつく感じがした。足もとはぬかるみ、泥と丸い石が堆積している。足に感じる石が、妙に均一で丸いので、潜って一つ手に取ってみる。暗くて見えないが、丸いところと、いびつなところが……

電光が穴の底まで届き、石の正体がわかった。

人間の頭蓋骨だ!

「リュンケウス」

上からグレナデンの声がした。穴から仲間の二人が顔を出しているのが見えるが、遠すぎて表情まではわからない。

「俺はここです。急に床が抜けて落ちた!」

リュンケウスは得体の知れない水にどっぷり浸かりながら、銃と髑髏を持った両手を振った。

「罠が仕掛けてあったのよ」と、イスノメドラ。

「こっちの敵は全部倒した。そっちはどうなってる?」

「暗すぎて、なにも見えない。でも、かなり広そうだ。水の中に髑髏がゴロゴロ転がってる。行方不明になった軍隊かもしれない」

「出口は?」

「わからない」

上の二人はなにか話しはじめた。

「聞こえない。なんて言ったんです?」

それでもなお、彼らは二人だけで小声で話しあっている。

──嫌な予感がする。

待っているあいだ銃を確かめると、点滅していた印がもとに戻っていた。また使えるか試しに引き金を引いてみると、光線が出た。なにか燃料のようなものを補充しなくても、時間が経てば勝手に戻るようだ。

そのときふと、すぐ後ろに気配を感じた。髑髏を捨てて、銃を構えて振り返る。なにも見えない。前をむいても後ろをむいても、視界は黒く塗りつぶされている。胸の奥で心臓が早鐘を打つ。

「リュンケウス」

またグレナデンの声がして、驚いてそちらに銃口をむけてしまい、ハッとした。

「俺ら、先行ってるからな」

「なんですか、それ!?」

嫌な予感は的中した。このまま置いてくつもりだ。そんなことしそうな奴だとは思っていたが。

「イスノメドラ。こっちにはなにかいるんだ。明かりもなくちゃ戦えない」

彼女ならもしかしたら、同情して心を動かしてくれるかもしれない。

「そっちに行って出口がなければ、三人とも死んでしまうわ。キルクークを倒したら助けを呼ぶから、それまで安全な場所に隠れてるか、出口を探してて」

隣人を愛せなんて言ってるくせに、目の前で助けを求めている人間に手を差し伸べるより、敵の首をとるほうが大事だっていうのか!

今や二人の仲間は残酷な神々のように、はるか上方から、泥沼でのたうつ人間を見下ろしている。リュンケウスはヘドロに足をとられてふらつきながら、立ち去ろうとしている連れに、我慢ならずに叫んだ。

「安全な場所なんてない! おまえら俺に死ねって言うのか!」

しかし、答えは返ってこない。やがて穴のむこうから二人の姿は消えた。
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