0章 彼女の正義 (3/9) ~ 科学者

「そうさ! 俺は〝アノマニー〟だからね」

リュンケウスは剣の切っ先を敵の急所に突きつけ、満面の笑みを浮かべた。こういうときほど、自分の能力を誇らしく思うことはない。

「手を上げろ。おまえはキルクークか?」

「そうだ」

「フードを取れ」

キルクークは言われた通りフードを取った。あらわれた素顔は想像していたのと違い、ぶくぶくと太った生まれたてヒナのような、髪の薄い、みじめったらしい中年男だった。のぞいたときはもっと背が高いように見えたが、台の上にのっていたからそう見えただけで、実際はずんぐりむっくりの小人だ。とても噂に聞いていた恐ろしい悪魔という容貌ではない。刃物を突きつけられておどおどしている。神秘主義者を気取っているのか、額に第三の目の入れ墨があった。

「小さいな」と言って、リュンケウスは鼻で笑った。その笑いには、少し安堵も混じっていたかもしれない。

「なんで撃たれても平気だったんだ?」

「このマントは、魔法も光線も跳ね返すんだ」

「おまえが作ったのか?」

「半分くらいは……。こことは別の遺跡で見つけた素材を、布状に加工して作ったんだ。こっちに来てからも研究をつづけて、完成するまで十年もかかったよ」

キルクークはこんな状況でも引きつりながら笑みを浮かべ、自分の作品を自慢していた。

「ほかにも自信作がたくさんある。聞いてくれ、さっきは自衛のために魔法を使ったが、私はあんたに敵意があるわけじゃない。あんたも、復讐のためじゃなく、賞金が欲しくて来たんだろう? 金が欲しいなら、私を殺すよりいい方法がある。どうせなら私とあんたで組まないか?」

「組むう?」リュンケウスは驚き、怪しんだ。

「そうだ。私の発明品を売れば、賞金をもらうより大儲けできるぞ。私はこの城で研究をつづけるから、あんたはそれを売りさばいて、実験材料を仕入れて、私の護衛をしてくれればいい」

「実験材料っていうのは、そこの娘のようなやつか? 人をさらっていったのは、脳みそを取り出すためなのか?」

「実験のためだよ。どうしても必要だった。材料の調達が嫌ならやらなくてもいい。それでも儲けは渡す」

「そんなに儲かるなら、どうして自分で商売しない?」

「人と話すのが苦手でね。私はトゥミス人に嫌われてるから、城から一歩出れば針のむしろで商売どころじゃないし。それに私は戦闘の専門家じゃないし、正直トゥミス兵や、あんたみたいな賞金稼ぎに押しかけられて、困ってるんだ」

キルクークの態度からは、確かに、今にも飛びかかって人を食ってしまいそうな凶暴さは感じられなかった。だが、消えた軍隊や賞金稼ぎたちはどうなったのだろう。

「やってきた奴らは、おまえが殺したんじゃないのか? 水の中に頭蓋骨がごろごろ転がってたが……」

キルクークは驚いたように、自分は敵じゃない、と必死にかぶりを振った。
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