0章 彼女の正義 (3/9) ~ 科学者

「そんな風に見えるかい? あの頭蓋骨はもっと古いものだよ。私がここに来たときからあった。ここに来るまでにわかっただろうが、この城はとても複雑な構造をしているんだ。入るのは簡単だが、手引きがないと、出られなくなる。侵入者は道に迷って勝手に死んだんだろう」

なんと! 大軍勢が消えたのは、ここで命乞いをしている哀れな小人の力でもなんでもない。この城そのものの迷路のせいだったのだ。兵隊はさっきまでのリュンケウスのように城の中で迷った挙げ句、暗闇の中で飢えて死に絶えたのかもしれない。もしかしたら、共食いで生き延びて、今もさまよい歩いている者だっているのかもしれなかった。

「あんたがいれば、城の警備は今よりも万全になる。私は研究さえできれば、金には興味はないから、研究に必要な資金さえもらえれば、あとの儲けはあんたがもらっていい。ここで私を殺したら後悔するよ」

リュンケウスの心は次第に揺れはじめた。うさん臭い話だが、このまま殺してしまうのは惜しいような気がしてきた。

「おたがいのためになる」

キルクークは必死で作り笑いをし、同意を求めるように眉を動かした。額に冷や汗がにじんでいる。

「本当に、そんな発明品があるのか?」

「あるよ。そこにも収ってある。ほんの一部だが」

キルクークはそう言って、実験体と管で繋がっている機械の横の、プリモス製の大きな箱に視線を送った。

「見せろ」

キルクークは背中に剣を突きつけられながら、古代文字の刻まれたパズルのような仕掛けを解除した。

重い蓋を開けると、なにに使うのか想像もつかないガラクタがたくさん詰まっている。キルクークはその中から一つを取り出して手渡した。その機械は普通の鉄製のように見える。

「プリモスじゃないな。なんの機械だ?」

リュンケウスは片手に剣を持ったまま、興味深げにその装置を見まわした。わけのわからない突起や、計器、模様のようなものがごちゃごちゃとついている。

「プリモスだと加工できないから、鉄を使って、プリモスの遺物を模造したんだ。わざわざ発掘しなくても人の手で作れるように。

古代人の機械の多くは、燃料の補充も弾丸の装填もいらない。動力がなんなのかは、まだはっきり解明できていないんだが、これまでの研究で、機械にはみな受信機のような部分があることがわかった。それで電波のようななんらかの力を受け取って、放出しているようなんだ。あの紫色の光は、機械を通して、それが増幅して、目に見えるようになったものだ。

受信機の機能さえ再現できれば、プリモス以外の物質でも、その力を受け取ることができる。試作品はまだまだ原物の性能にはおよばないが、研究を進めていけば、いずれはまったく同じ性能のものを人間の手で作れるようになる」

キルクークは、自分の学説と夢を長々と語りながら、箱の中を引っ掻きまわした。素人にはなにを言っているんだかさっぱり理解できない。

「これはなにに──」

と、学者のほうを見てたずねかけたとき、キルクークが箱の中から短剣を取り出して襲いかかってきた。リュンケウスが剣で応戦すると、短剣はあっさり床に落ちてしまった。戦闘の専門家ではない、というのは本当のようだ。再び胸に剣を突きつけた。

「俺を騙したな」

友好的になりかけていた目つきが、途端にまた憎々しい敵を見る目に戻ってしまった。

「こ……この短剣も発明の一つだ」

キルクークは白々しい嘘をついた。だがもう、相手の心は動かすことはできない。怒った賞金稼ぎは装置を床に叩きつけ、部品が飛び散った。

「ああ……あ……五年もかかったのに……」

学者は自分の命が危険にさらされているにも関わらず、作品の心配をして慌てふためいている。

「組むっていう話はやめだ。信用できない。売れる物があるなら、おまえを殺して奪えばいい」

「でも、使い方がわからないだろ? 作り方も。どちらも私の頭の中に入ってる。文字には書き残してないし、私を殺したらわからなくなるぞ?」

あくまで対等に取り引きしようとしているつもりのようだが、その声は恐怖でうわずっている。

「そんな商売しなくても、賞金ならたんまり手に入る。おまえを殺したら、もうこんな生活とはおさらばだ」

危険な戦場とも、野営地のむさくるしいテントとも、ぽっかり口をあけて待ち構えている共同墓地の墓穴とも、永遠にお別れだ。

賞金首の目が宙を泳いだ。もうネタがつきたらしいので、リュンケウスはとどめを刺そうとした。

「待て! もっといいものがあるぞ。賞金なんかよりも、もっといいものだ」
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