0章 彼女の正義 (8/9) ~ 知りたくもないこと

「今では自分を見失っていないのはあなただけね。グレナデンはあなたの話になると悪口ばかり言う。どうしてそんなに嫌うのかわからない。あなたの口から、彼の悪口を聞いたことなんて一度もないのに。あなたの評判が上がると、自分の立場が脅かされるとでも思ってるのかしら?

いきなり大金を手にして、おだてる人しかまわりにいないと、人ってやっぱりおかしくなってくるのね。私のことも、もうなんとも思ってないみたい。前はこうじゃなかったのに……」

私は自分を見失った。グレナデンの好みの女になろうと必死だった。彼に気に入られるためなら、自分の信じていたことや生き方を、捨てることさえ拒まなかった。でも、私がいつまでも変わらぬ愛情を注ぎつづけたのに、彼はどんどん冷たく豹変していってしまった。一体どこでどう間違ってしまったのか、見当もつかない。もう一度やり直せるなら、どんなことだってする。なのに、どうしたらいいのかがわからない。

イスノメドラが悲しみに沈んだ目で過ぎ去った日々を思い出していると、リュンケウスは少し言いにくそうに切り出した。

「あいつは、君が思うほど変わってはいないよ。今までよけいなことだと思って言わなかったけど、あいつは前から俺を悪し様に言うことがあったし、女癖も悪かった。戦場じゃどさくさにまぎれて女を襲うことだってあったし、そうじゃなくても、腕試しみたいに口説き落とすのが好きなんだ。それだけだから、相手が夢中になればなるほど、冷めて興味をなくしてしまうんだ。古城に踏みこんだ日、グレナデンは君をモノにできるかどうかで賭けをしようと言ってきた。そのときは冗談だと思ったし、結婚するって聞いたときは、さすがに今度こそ本気なんだろうって思ってた。でも、もしかしたら、あいつは賭けのために君と結婚したのかも」

あの人が、そんなことを……?

恐れていた以上に最悪の事実を突きつけられ、イスノメドラは泣きだしてしまった。リュンケウスの前だろうと、なりふり構っていられる余裕などなかった。

「どうしたらいいの……」

迷子になった子供のように、泣きじゃくりながらつぶやいた。

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