1章 赤い石 (2/2) ~ 襲撃者の影

あたりは少しずつ暗くなり、木々が黒い影に見える。毒々しい水玉模様の肉片のような花弁をもった食虫植物が、異臭を放っている。姿の見えないなにかが、茂みの中でガサガサ動く。気がつくと、足にはヒルがくっついていた。遠くから、けたたましい獣の叫び声がする。こんなところで迷ったら死んでしまう。ララはカラスから離れないようなんとか追っていくだけで精一杯だった。

そのうち遠くから水音が聞こえ、川に出た。水は緑色で、川幅はそれほど広くないので、さっき上から見えた大河ではない。やっと見えた開けた空には、一番星が輝いていた。少し先で川は滝になり、カラスはそこで立ち止まった。

「今日はここまでっ」

そう言って、たいらな岩場の上に荷物をおろし、ごろんと仰むけになって伸びをした。

滝のほうによっていって見おろすと、川の水が轟音をあげながら美しい緑色の滝壷に吸いこまれていくのが見えた。そのむこうはまたジャングルだ。緑の果てに、沈んだ夕日のオレンジ色の光が残っている。風も大地も、まだ熱を持ったままで、絞ったら滴り落ちそうなほど、しっとりと水気を含んでいた。

目指す目的地はまだまだ見えてこない。

「あと、どれくらいで着く?」

「早くてあと、三日ぐらいだな」

「えぇー、三日もこんななのー?」

「しょうがねえだろ。歩くの遅えんだもん」

私のせい!?

「そんなに急いでんなら、そっから突き落としてやろうか?」

カラスは石の上で寝返りをうち、あくびをしながら言った。

水辺に目をやると、水面からワニがヌプッと頭をだした。さっき見た感じでは、あながち冗談ではなく、飛び下りられない高さでもなかった。滝壷も深そうだったし、川の流れもゆるやかだ。が、

「私、泳げないもん」

苦手なんてものではなく、水に入ったら、あっという間に沈んでしまうだろう。

「あーあ、明日はまわり道して行ってやるよー。俺一人だったら、こっから飛び降りてるけどね」

このままここにいると、いつまでも嫌味を言われそうなので、ララは岩場から下りた。

「どこ行くんだ?」

「あっちで寝る」

巨木に空いた大きなうろを指差した。正確に言うと、絞め殺しの木が作った空洞だ。絞め殺しの木は、ほかの木に巻きついて成長する。大きくなると宿主の木が枯れてしまい、中が空洞になるのだ。表面には締め殺しの木だけが残り、ツタが絡みあって編み目状になっている。今日初めて見て、カラスに教えてもらったことだった。

カラスが起きあがってついてこようとしたので、ララは

「一人で」と、つけ足した。

「一人で寝たら、人喰いカバに喰われるかもしれないよ」

カラスは真顔で言った。

「嘘だあ。カバは水の中にいるし、人なんて食べないよ」

「本当に人を食うカバがいるんだ。大地の裂け目のこっち側には、人を食う動物がいっぱいいる。しかも、人食いカバはカバのくせに水に入るとおぼれる」

あまりに自信ありげに言うので、ララは少し怖くなった。でも、それを顔に出すと笑われそうなので、こっちも自信たっぷりに返した。

「平気だもんっ。カバが来たら魔法で追い返すから」

カラスはつまらなそうにまた寝転がって、そっぽをむいてしまった。
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