2 ホタル草
「あの子、目が三つついてた……」
ほとぼりが冷めたころ、ララは言った。すでにジャングルのさらに奥深くへとわけ入り、追っ手の気配はない。まっ暗でまわりがよく見えなかったが、目立たないよう明かりは持たなかった。川岸を歩くのは避け、迷わないよう水音が聞こえる程度に離れたところを進んでいく。木々が黒々と空を塞いで月も見えない。
「おばあちゃんが昔話で、古代人は肌が黒くて三つ目だったって言ってたの、聞いたことある。もしかして、さっきの子、古代人かな?」
「そんなもん、いるわけないだろ。作り話だよ。寝ぼけてたから、飾りでもつけてたの見間違えたんだ」
カラスはまだピリピリした様子で、まわりに気を配っていた。でもララの話には興味なしだ。
「ほんとに、本物だったよ。瞬きしたもん。光ってたし」
「光ってて、瞬きするような飾りだって、その気になりゃ作れるさ。同じのをマヌ王もつけてる」
「なんで?」
「古代人のフリして、いばってんのさ。国家ぐるみのペテンだ」
なんでそんなことするんだろう、と考え、ハッとした。
「じゃあ、さっきの王様?」
「んなわけないだろ。なんで王様がここにいんだ」
「おばあちゃんからあずかってる石、欲しがってるみたいだった」
「目立つからねらわれたんだろ。賊に襲われたんだ。高く売れると思ったんじゃない? 危ないから隠してとけよ」
ララはそう言われてうつむき、石のことを考えた。
おばあちゃんも、石をママ以外の人にあげたり、無闇に人目にさらしちゃいけない、と言っていた。なのに私は、石があんまり綺麗だったから、首飾りのつもりでぶら下げていた。酒場の男にも見せびらかした。
こんなことになったのは、やっぱり私のせいだろうか。カラスもそう思っていらだっているのかもしれない。
もし、ママが受け取らないか、なにかの理由で渡せなくなったときは、私が持っていることになっている。それもできないようななにかが起こったときは、信頼できる人間の手に渡るようにしておけ、とも言われていた。
でも信頼できる人間ってだれだろう? カラス? それとも、魔の森に居残っている弟子たち? それくらいしか思い当たらなかったのでそう尋ねると、おばあちゃんからは『自分で決めなさい』と言われてしまった。でも今まで一度もそのことを真剣に考えたことはなかった。そんな人が必要になるようなことなど起こらないだろう、と思っていたからだ。
まさか、寝込みを襲われて、カラスが人を刺すようなことになるなんて……
「滝壷に浮いてた人たちのこと、どうしたの?」
ララは勇気を出して聞いた。
「感電させた」
「それは見ればわかるけど……」
「気絶させただけだよ」
本当かな?
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