2章 ホタル草 (2/4) ~ 世界一ごちゃごちゃした街

道端を占拠しているのは芸人だけではなかった。芸もなにもない浮浪者が、破れかけた腰巻き一丁でずらりと並んでいた。真っ黒な棒のような体をして地面に座り、なにごとかをつぶやきながら、だれかが目の前の茶碗に小銭を投げ入れてくれるのを待っている。路地裏の暗がりの中で、うす汚れた生き物がわらわらとうごめいていた。たぶんそれがみんな人なのだ。中には倒れたまま死んだように動かない者もいたが、だれも気にとめていなかった。

「ひさしぶりに来たけど、変わってないなあ」

カラスは市場をぶらぶら冷やかしながら、懐かしそうに言った。

ララは初めて見るものばかりで好奇心をそそられたが、今は一刻も早くママに会いたかった。ジャングルで起きたことも話したかったし、ママのところに行けば、もうカラスと二人きりでいなくて済む。三年前にきた手紙には、ヴァータナに本拠地を置くイェルサーガという特殊部隊の隊長になったと書いてあった。その手紙がママから届いた最後の手紙だ。宮殿を通して手紙のやり取りをしていたので住所はわからないが、今も無事に働いているなら、職場を訪ねればわかるはずだ。街をゆっくり見物するのはそれからだ。

「早く宮殿に行こう」

そう言っているそばから、カラスは露店で立ち止まっていた。

「なにしてるの?」

ララが急かすようにそう言うと、カラスはなにかを挟んだパンのようなものを受け取って、差し出した。

「ほら、腹へってるだろ?」

露店でこれを買っていたのだ。そういえば今朝食べたのは干しバナナだけで、お腹がペコペコだ。店のお兄さんは、疲れて空腹そうなララを見ると、マヌ語でなにか言ってゆで卵をくれた。『おまけだよ』とでも言ったのかもしれない。ララは笑顔になり、トゥミス語で礼を言った。

代金を払い終わったついでに、

「この金、やるよ。先生からもらった金だしな」

マヌ王国にも、見たこともない独自の貨幣があるようだったが、今は帝国のシグ貨幣が一番強いので、両替しなくても受け取ってもらえるという。ララは背負い袋と一緒に財布を置いてきてしまったので一文無しだったが、カラスはあの騒動の中でも、ちゃっかり背負い袋を持ちだしていた。しかもお金は普段から二つに分けて持っていて、小銭は財布、大金は巾着に入れてベルトにくくりつけ、ズボンの内側にぶらさげている。なので仮に袋を置き忘れたり、財布をすられたりしても無一文にはならないのだった。

お金を受け取る様子を、近くの浮浪者が、もの欲しげに見ていた。ララは目があった一人の茶碗に硬貨を一枚入れた。すると、まわりにいた何十人もの浮浪者たちが手を差し出して群がってきたので、うろたえた。

「どうすんだよ、それ? いちいち金やってたらきりねえよ」

カラスは少しおもしろがるような、冷めた口調で言った。

それから、その辺の石段に腰を下ろして二人でお昼を食べた、さっき露店で買ったパンのようなものは〝プンタ〟と呼ばれているもので、ヴァータナではよくある軽食らしい。薄く焼いた小麦の生地に、スパイスをまぶしたカエルのフライと、薄切りの果物のようなものがはさんである。そして、軽く煎ったプリプリの芋虫もわさっとはさまっていた。

カラスがうまいと言って食べているので、ララも恐る恐る食べてみると、カエルは辛くて、果物は甘酸っぱくて、芋虫はまろやかで、不思議な味がした。

お腹が満たされたら、なんだか眠くなってしまった。疲れがでてきたのはカラスも同じのようだ。大きくのびをすると、

「クワッパーにでも乗ろうか」と言ってきた。

「クワッパー?」
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