2章 ホタル草 (3/4) ~ 爆弾魔!

 

宮殿の正門へとつづく広場には、神聖な石像が左右等間隔にいくつも並んでいる。偶像はどれも三つ目の半人半獣。口から出した舌が腹まで届いている人魚や、たくさんの手に刃物と悪鬼の生首を持った蜘蛛人間など、おどろおどろしい姿をした神様ばかりだ。

最高神であるマヌ神だけは広場の中央に鎮座し、金箔がはられて派手に光っている。破壊と創造を司るマヌ神は、一段と奇抜な姿をしていた。フクロウのような頭から、雄牛のような角を生やし、胴体は人間で、足は鳥。孔雀のような尾羽を背後に広げている。

それぞれの偶像の前に、花輪や香を捧げて祈っている人がいた。その祈り方がすごい。老若男女、貧乏人も、裕福そうな身なりをした者も、泣き叫ぶような声をあげながら一心不乱に地面に身を投げ出している。

祈りの場は、大量の香を焚く煙で霞がかかったようにもうもうとしていた。ギラつく太陽に脳天を焼かれ、茹だるような暑さの中、こんな強烈な匂いを嗅いでいると、気が変になりそうだった。

広場と石の城壁のあいだには掘りがあり、跳ね橋が渡してある。城門の脇の詰め所と見張り台には、制服を着た衛兵がいた。ママの自筆の手紙を持ってはいるが、果たしていきなり行って取り次いでもらえるだろうか?

門にむかって歩きだしたとき、とんでもないことが起こった。

城壁のむこうに見えていた二つの塔の片方が、突然爆発したのだ。炎と黒煙をあげながら、塔の石積みが崩れ落ちていく。

それから衛兵が一人、城壁のてっぺんから、おかしな動きで駆けおりてきた。その男の動きはまったく重力を無視していて、まるで地面を走るように、垂直の壁面を走っていた。見張りについていたほかの衛兵たちが、城壁の上の通路に集まってくる。広場にいた衛兵も刀を抜く。男は水の上を走り、掘りを駆け登って広場に出ると、導火線に火のついた爆弾を掲げて見せた。

その男だけは、衛兵の制服を着ているが、実は衛兵ではないようだった。服の前を開くと、胴体にも大量の爆薬を巻きつけてあるのが見えた。手に持っている爆弾が爆発すれば、たぶん体に巻きつけた爆薬にも引火するだろう。

衛兵たちは退き、近くにいたマヌ教徒たちは一斉に逃げだした。

爆弾男は両腕を空にむけて開き、マヌ語でなにか絶叫している。

ところが、そばで祈りつづけていた巡礼者風の男が、叫ぶ爆弾男に飛びかかり、火のついた導火線を爆弾から引き抜いてしまった。途端に、今度は衛兵とマヌ教徒たちが、一斉にむらがって爆弾魔を袋叩きにしはじめた。導火線が少し長すぎたようだ。

ララの隣で、カラスはとっさにつないだ手を痛いくらい握っていた。

「痛いよ」

ララに言われて、カラスは我に返ったように手を放した。

「なんなの? あれ」

「テロリストだよ。政治犯を収容している塔を爆破したんだ。仲間を解放したなんて言ってる。……なんか行きづらくなっちゃったな……」

リンチが暴動に発展する寸前のところで、門の中からまたもう一人衛兵がやってきて、混乱を鎮めた。ほかの衛兵より偉そうで、上官のようだ。暴徒の中から引きずり出された爆弾男は、血まみれのボロ雑巾のようになっていた。

上官は部下二人に男を引きずらせて門の中に戻ろうとした。カラスは人ごみを掻きわけていき、大胆にもその一番偉そうな男に声をかけた。

上官は忙しいなか呼び止められていらついた様子だったが、特殊部隊の隊長であるララの母親が書いた手紙を渡されると、何度も手紙の文面と二人の外国人の顔見あわせた。そして最後には『ついて来い』という仕草をした。
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