3章 迷いの森 (1/8) ~ 王様に会えるのは光栄なことです

 

ティミトラのことを聞くためにまわされた部署では、机に戦死者の遺族に宛てる手紙が山積みになっていた。カウンターでは義足の男が少ない保証金の額でもめていて、役人は事務的で無愛想。日がな一日、だれがどこでどんな負傷をし、いくら支払うか、規則通りに黙々と書類に記載していると、あんな面になるんだろう。こちらがたずねても、早くやっかい払いしたいようだった。

そんな対応が急変したのは、ララが出ていったあと、応接室にお茶を持ってきてくれた感じのいい若い侍女に、ジャングルで襲われたことを話してからだった。別になんてことない世間話のついでだった。なのに、額に目の飾りをつけたおかしな子供や、渡せと頼まれていた石のことを少し話に出すと、侍女は血相を変えてほかの官吏を呼んできた。最初は盗賊と戦った武勇伝に興味を持っているのか、と思ったが、話しているうちに、さすがに様子がおかしいことに気づいた。『魔法の石を見せてくれ』なんて言ってくる。石はララが持っている。でも、嫌な感じがしたので、官吏たちには『石は盗賊に盗まれてしまった』と言っておいた。

そして、しばらくすると、さっきの女官がやってきて謁見なんて話になった。官吏たちは石や子供のことをやたらしつこく聞いてきたので、王が話したいと言っているのも、そのことなのかもしれない。それでどうするつもりなのかは見当もつかないが、こんなことになるなら、言わなればよかった、と思う。

 

カラスはソファーの上の服を広げてみた。官吏たちと似たような、派手な色の民族衣装だ。豪華とまではいかないが、今着ている服よりも数段仕立てはいい。

それから服をそこら辺に投げ捨てて、ソファーに横になった。ララが出ていってからも、官吏と話をしていたので、結局一睡もしていない。どうせ着がえるのなんてすぐだし、遅れを取り戻して眠ろうと思った。が、これから王と会うのかと思うと、今度はそわそわして眠れない。せっかく官吏もうるせえガキもいなくなって、静かになったのに。

マヌ王国は、最近まで共和政だったトゥミス帝国と違って、何千年ものあいだ先制君主制を貫いてきた国だ。宗教と政治も未分化で、国王は完全な独裁者だ、と聞いている。

居心地が悪くて寝返りをうつと、壁に貼られている紙が目に入った。

『私はマヌ神を崇拝し、その御使いである王を崇拝します』

マヌ語の装飾文字で書かれてる。マヌ語で読める文字はこれだけだ。町中いたるところでこの貼り紙を見るから、なんて書いてあるのか聞いたことがあったのだ。

うざってえ。

ヴァータナの奴らは、実際この貼り紙をどう思ってるんだろう? 聞いたところで本音なんて答えられないんだろうが……。

少なくともティミトラは、信仰のために戦っていたわけではなかった。ララには言っていなかったが、実はこのヴァータナで、彼女と会って直接話したことがあるのだ。
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