3章 迷いの森 (5/8) ~ 森から出られない

気を取り直してもう一度、印をたどってみることにした。しばらく歩いていくと、今度は奇妙なものを見た。苔むした倒木の上を、親指くらいの背丈の小人たちが、きのこや山ぶどうを担いで行進している!

幻覚? ──じゃないよな……。

目を擦ってみても、見間違いではなかった。捕まえてやろうと思って手をのばすと、小人に小さな鎌で指を刺され、逃げられてしまった。中指の腹から、赤い血が玉のようににじみ出た。

どこかでヒキガエルが鳴いている。

また歩きだすと、今度は遠くのほうに白い馬がいた。しかも、よく見るとただの馬ではなく、全身からまばゆいばかりの白光を放ち、たてがみは金色で、七色にきらめく水晶のような角を一本生やしていた。

それはまさしくユニコーンだった。

伝説上の生き物が目の前にあらわれたという衝撃で、少しのあいだぼう然としてしまった。むこうもこちらに気づいて、振り返ったままじっとしている。

だが近づこうとして一歩踏みだすと、ユニコーンはたてがみを振り乱して悠然と走りだした。幻じゃないということを確かめたくて、ユニコーンを追って走りに走った。が、疾走する馬に人間が追いつけるはずもなく、すぐに見失ってしまった。

膝に手をついて息切れしながら見まわすと、見覚えのない場所にいる。木々に印はない。ぐねぐねと追いまわしたので、どこをどう走ってきたかも覚えていない。

魔の森に住むとかいう亡霊に、からかわれているのか?

背後からゲラゲラと笑う声が聞こえて、振り返ると、小人が木の幹を登っていって、勝手に包帯の切れ端を巻きつけているところだった。印をつけ変えているのだ。小人は結び目を作ると、俺を指差して大笑いした。

虫酸の走る笑い声だ。

小人を木からむしり取って、根元に叩きつけた。そいつは耳をつんざくようなおぞましい悲鳴をあげて炸裂した。梢にとまった黒い鳥の群れが、羽音をたてて一斉に飛び立つ。もう一度足もとを見ると、小人の姿は跡形もなく消えていた。残ったのは、俺に叩きつけられてはらわたの飛び出したヒキガエルだけ。もつれた紐のような腸を引きずって、まだ跳ねている。風もないのに木の枝が揺れる。舞い落ちる木の葉が蛾になって俺のまわりを飛びまわる。木々のざわめきが、せせら笑いに聞こえた。

木まで俺のことを嘲笑っていやがる!

木々にむかって、森に来てから覚えたばかりの電撃魔法を放った。

「畜生!」

だがまだ思うように制御できなくて、木に当たらない。焼きつくしてしまいたいのに、当たっても葉っぱや枝先をちょっと焦がすくらいしかできなかった。

闇雲に乱射していたら、めまいがしてきた。魔力を消耗してだるい。立ってるのもきつくて、その場で手足をのばして倒れた。

これじゃまるで、窓が全開なのに、天井に頭を打ちながら同じところをまわりつづけてるバカな羽虫みたいだ。

監獄の壁を見上げるように空と梢を見ながら、しばらく体を休めていた。そのうち落ち葉を踏みしめる足音が聞こえてきたので、首だけそちらにむけた。やってきたのはセトだった。

「寝てたの?」

腫れものを突っつくように恐る恐る声をかけているのがわかる。金髪で青い目、頬はバラ色で、むくんだようなぽっちゃり顔。動揺すると、すぐに額にしわが寄って眉尻が下がる。今もそうやって、殴られた犬のような顔をしている。ガキみたいなリチェの弟子の中でも、ひときわ鈍臭くて情けない奴だ。

「お昼、食べなかったから取って置いてあるよ。今、みんなでかくれんぼしてるんだ。一緒にやらない?」

自分が木の幹にむかって数を数えて、去勢された少年合唱団のような弟子どもを探しまわっているところを想像した。──セトみぃーけっ! ──あはっ、見つかっちゃった! ……鳥肌が立つ。

「やらねえよ。金もらってもごめんだね」

「そっか」

セトは残念そうに言った。

「毎日そんなことばっかやってて恥ずかしいと思わないのか?」

俺がそう言うと、セトはなんでそんなことを聞くのかわからない、という顔をした。
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