3章 迷いの森 (5/8) ~ 森から出られない

「別に恥ずかしいことなんてしてないよ。かくれんぼのなにが恥ずかしいの?」

「俺が言いたいのはさ、かくれんぼのことじゃない。おまえはもう十六なんだろ? だったらもっと、ほかにやることがあるんじゃないのかって言ってんだよ。いい加減、ばあさんの言いなりなんてうんざりしないか?」

「先生はいつも正しい」

「外でいろいろ見れば、正しくないのがわかるよ。おまえらみんな、年に二三回村に買い出しに行くぐらいしか出歩いたことないんだろ? もうちょっと遠出しないか。街は楽しいぜ。ここにはガキとババアしかいねえけど、街にはそそられる女もいる。畑で芋掘りしてる姉ちゃんじゃねぇ。爪に泥なんか詰まってなくて、耳飾りつけて、口紅塗って、歩くたびにケツを振ってドレスの裾をひらひらさせてるような奴だよ。見たことねぇんじゃねぇの? 行けば俺が紹介してやるよ。一緒に森を出よう」

正直言うとこんな子豚をつれて歩くのは御免だが、ずっと魔の森に住んでいるセトなら、森を出る方法を知っているかもしれないと思った。でもセトは俺の誘いを聞いて、汚いものを見るような目をした。

「そんな顔するなよ。今のは冗談さ。本当にいろんなものがあるんだ。珊瑚礁の海をおまえに見せてやりたい。波が足下の砂をさらっていくなんとも言えないあの感じ。海に潜れば、空気みたいに透明な水の中を、熱帯魚が泳ぎまわってる。宝石みたいな珊瑚の森の中を、飛ぶように泳いでみたいと思わないか? 世界は広くて、美しいものであふれてるのに、おまえはまだ海を見たことすらない」

「おまえは、先生から森を出ちゃいけないって言われてるんだ。逃げようとしてるなら、先生に言いつけるよ」

腰抜けの癖に、先生の名前を出すときだけは強気だ。王冠でも手に入れたみたいに。セトの頑な態度に、だんだんいらだってきた。

「なにを言っても、二言目には『先生! 先生!』先生に言われなきゃなにもできねえ! おまえらは腑抜けだ。言いつけたければ、言えよ。言ったら、てめえをそこにいるヒキガエルみてえにしてやる」

セトはヒキガエルを目で探して、見つけると、俺を白眼視して後ずさった。
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