3章 迷いの森 (5/8) ~ 森から出られない

 

 

その後も何度か脱走を試みたが、結果は変わらなかった。やる度に迷い、悪霊にからかわれる。そのうえ俺の化けの皮が剥がれるにつれ、弟子たちから毛嫌いされるようになり、居心地はますます悪くなる一方だった。

もしリチェが、アクの強い野菜を真水に浸けるみたいに、人間も真水に浸けておけばアク抜きできると考えてるんだとしたら、大きな間違いだ。

屋根の上に寝そべって、暇潰しに舞い落ちてくる木の葉を一枚ずつ電撃で焼き払っていると、下にララがいるのに気づいた。いつからそこにいたのか、突っ立って俺の行動を観察している。

気になっていたララの母親のことは、すでに確認済みだ。ララはティミトラの娘で、顔も双子のようにそっくりだった。母親と同じ炎のような赤毛で、瞳はターコイズブルー。でもまだあどけない。

ララは子供のような大人ではなく、本物の子供だ。俺が気づいて目があっても、ララは吸いこまれそうな澄んだ瞳をそらさなかった。きょとんとした表情で、不思議そうにこちらを見上げている。

「おもしろい?」

ララは目があってしまったのでやむを得ず、という感じで口を開いた。

「すっげえ、つまんねえ。やってみる? 後悔するよ」

体を起こしてそう答えると、ララはうっすら愛くるしい笑みを浮かべた。

俺の言った下らない冗談でララが笑ったのは初めてだったので、嬉しくなって俺も笑ってしまった。ところが、「上がってきなよ」と言おうとしたとき、禿げのカシムが飛んできて、ララの耳もとで囁いた。

「相手にしないほうがいい」

聞こえないように言ったつもりらしいが、丸聞こえだ。ララはなんの異論もなく、奴のあとについて行ってしまった。

クソハゲめ……。
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