3章 迷いの森 (6/8) ~ マヌの神話

「レネは王の中の王、神王になって、理想の国を作った。彼の在位中は、人間の歴史の中で最も幸福な時代だった。でも彼が天寿をまっとうして死んでしまうと、王位争いが起こって、理想の国は一夜にして滅んでしまった。

大いなる生き物を倒すために、一致団結していた人々はばらばらになった。巨大な支配者がいなくなったあとは、人間同士でだれがだれを支配するかで戦争がつづいた。そのうち、 レネの兵器もそれに使われて、人類は殺しあって滅んだ」

「滅んじゃったのに、なんで僕らがここにいるの?」

セトが当然の疑問を口にした。

「滅んだのは私たちとは別の人類だったのよ。古代人たちには目が三つあって、最終的にはすべての人が強い魔力を持っていたとされてる。

神々の中でもっとも偉大なマヌ神は、おたがいのために命を捧げたり、争いあったりを繰り返す人間という生き物を哀れに思い、生き残ったわずかな人々から目を一つ奪って大人しくさせると、自らの庇護のもとに置いた。また王位争いが起きないように、今マヌ王国の王はマヌ神が直接選んでる」

「マヌ王国以外の王様は?」

「マヌ人の神話はマヌ人以外のことは語らない」

「マヌ人以外にもいろんな人がいるのに、変なの」ララが感想を言った。

まったく変だ。神話なんてみんな荒唐無稽なものだが、世の中にはそれを本気で信じてる奴がいるんだから驚きだ。俺には理解できない。

「で、なんでユニコーンには角が生えてるんだ?」

イフィーがまた同じことを聞いた。

「さっきわからないって言ったのに」

セトがあきれたように言った。するとイフィーはなにを考えたのか、

「カラス! カラスは知ってるか?」

話を振ってきた。面倒なので寝たふりをした。

「カラス! カラス! もう寝たのか! なあ!?」

寝てたら答えられないし、本当に寝ててもこんなに声をかけられたら起きてしまっただろう。イフィーはしつこく天蓋の中に首を突っこんでまで確認した。

「起きてる。なあ、なんでだ?」

「知るかよ。本人に聞け」

「どうやったら聞ける?」

うぜえ奴だな。

「さっき窓の外暇そうにぶらぶらしてたよ。行って聞いてこい」

窓の外にユニコーンがいると言ったら、うす馬鹿野郎は大喜びで外に飛びだそうとした。

「待って、イフィー。嘘に決まってるじゃない」

ララが引き止めた。つづいてカシムが俺の天蓋を引きちぎりそうな勢いで開け、憤然として言った。

「イフィーをからかうな。冗談が通じないんだ。外は夜だし、雪が降ってるのに」

弟弟子の厄介事には、なんにでも兄貴面で首を突っこむ。

「冗談なのか?」

イフィーは部屋の入り口で振り返った。本人が一番状況をわかってない。

「ほんとさ。早く行かないと、どっか行っちゃうぞ」

俺はうざい奴を追い払いたいのだ。カシムがいつになく深刻な表情で、俺をにらんでいた。

「僕と一緒に、外に出ろ……」

どうやら、やる気らしい。そんな度胸があるとは驚きだ。俺は飛び起きた。
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