3章 迷いの森 (7/8) ~ 魔女の正体

心底そう思い、先生の体を軽く揺さぶった。が、反応はなく、もう完全に意識を失っている。俺は部屋の外に飛びだした。

「カシム! 街行って医者連れてこい」

ララを含めて弟子たちは全員、居間の暖炉のまわりに集まっていた。俺がただならぬ様子で飛びこんできたので、驚いている。カシムは窓辺に立って陶器のカップで手を温めていた。

「先生は医者は呼ばなくていいって」

「そんなこと言ってる場合じゃねえよ! やばそうなんだよ。俺じゃ森を出られねえ」

するとカシムは血相を変えてカップを置き、リチェの寝室に駆けこんでいった。イフィーはこんな状況でも、いつも通り緊張感なくへらへらしてる。ウルマはやばいと聞いただけで早くも泣きだしている。そばにララとセトも座っていたので、セトにむかって言った。

「回復魔法使えるなら、待ってるあいだかけてろ」

「でも、先生は僕の魔法じゃ効かないって言ってたよ」

セトは席から立ちもしないでおずおずと言った。

「ぐずぐずしてないでやれよ、ボケ!」

怒鳴られてやっとセトが寝室に駆けこもうとすると、中からカシムが神妙な面持ちで出てきた。

「医者を呼ぶ必要はないよ。……もう死んでる」

その場の空気が、一気に冷たくなった。セトは一瞬立ち止まり、カシムの横をすり抜けて寝室に入っていった。ウルマは一層さめざめと泣き、ララがその隣で背中をさすった。イフィーはなにも理解できずにまだへらへらしている。

リチェの死を確認するため、俺も寝室に入ろうとすると、カシムが門番のように引き止め、信じられないことを口にした。

「おまえ、先生になにかやったか?」

俺が殺したって言いたいのか!? ──衝動的に、奴の横っ面を殴り飛ばしていた。

カシムは勢いで床に尻餅をついたが、やり返してはこない。殴られた頬をおさえ、立ちあがる気力すらなくうな垂れている。物音を聞いて寝室からセトが顔を出し、例によって怯えた表情をした。ウルマの泣き声はピタリと止み、ララは体を硬くして軽蔑の眼差しでこちらを見ていた。まるで全員、人が人を殴るところを生まれてはじめて目撃したような顔だった。顔色を変えなかったのは、イフィーだけだ。

まわりから白い目で見られても、体中掻きむしりたくなるような悔しさと腹立たしさは収まらない。カシムが俺を侮辱したことを謝らないのなら、こっちだって殴ったことを謝るものか。

「なんだよ!? 悪いのは俺かよ!?」

俺は寝室へは入らず、家を出た。
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