4章 理不尽な罪状 (1/2) ~ 独裁者の玉座

王の顔面は赤や緑の顔料で塗りたくられ、王冠からは雄牛のような黄金の角が生えている。その下からまっすぐで艶のある黒髪が床までのびていた。様々な宝玉で彩られた玉座の背は高く、王自身は小柄だ。紫色の絹のゆったりとした服の袖や裾に、孔雀の尾羽が幾重にも縫いつけられていて、玉座の背後にも孔雀の尾羽が壁いっぱいに描かれているので、王が巨大な孔雀の尾羽を背負っているかのように見えた。

マヌ王は、破壊と創造を司る最高神マヌの第一の従者で、安寧の神の化身である──と、いうことだったが──出で立ちはあの宮殿の前にあった奇怪なマヌ神像にそっくりだ。しかも、額には紫色の第三の目がついている。

その目は、ジャングルで見た少年のものと同じだった。でもカラスから、王様のつけてるのは作り物だ、と聞いている。本当かどうかはわからないが、そう邪推したくなるのにも理由がある。

ジャングルでの一件があってから聞いたことなのだが──マヌには大昔から、第三の目を持つ者を王にする、という風習がある。これは逆に言うと、第三の目さえついていれば、血筋や家柄とは関係なく、だれでも王になれる、ということだった。このことは、おばあちゃんが神話を語ったときに『マヌ王はマヌ神が選んでいる』と言っていたのと関係がある。マヌ神はだれが王なのか一目でわかるよう、選んだ王に印をつけた。その印こそが、第三の目なのだ。

そんなわけで、マヌ王国には王家というものが存在しない。第三の目は子供に遺伝するものではないからだ。王が年老い、その治世が終わりに近づくと、マヌの民の中から一人、新たな三つ目の子が生まれ、それがまた老いると、まったく関係のない家からまた別の三つ目が生まれる。マヌ王国では代々そんな神秘的な方法で、血のつながりのない者に王位が受け継がれてきた。

赤ん坊の額の目は生まれつき閉じていて、在位中の王が死ぬまでは開かないし、神力もそなわっていないものらしいが。マヌ教徒は、老いた王の死とともに、その古い肉体に宿っていた神の永遠なる魂が、そっくりそのまま若い王の新鮮な肉体に宿る、と信じているのである。

カラスは、これらの言い伝えと歴代の王の第三の目をひっくるめて、国家規模の壮大なペテンだと主張した。『どうせ貴族の中から適当なのを王に祀りあげて、あとから目の飾りをつけてるだけだ。うさん臭い宗教家と手口は同じで、もっともらしい理由をつけて支配するために、ありもしないものを信じさせているだけだ』と言うのだ。

だが作り物だと聞かされていても、実物を前にするとぎょっとしてしまう。近くに進み出てみればみるほど、本物の眼球のようにしか見えなかった。

第三の目の下にある二つの黒い目は、鋭くこちらをにらんでいる。厚化粧で表情がわかりにくいが、なんだか怒っているように見えた。

ララたちは床に膝をついて、三回平伏した。それがマヌ王と謁見するときの正式な作法なんだそうだ。

カラスは『ペテン師、ペテン師』と馬鹿にしていた割に、緊張して畏まっている。寸分たりとも馬鹿にした態度は見せない。

王に話しかけられ、カラスがマヌ語で答えはじめた。ララにはなにを話しているのかまったくわからなかったが、話し方がいつもよりぎこちないのは感じた。場違いなところに引っぱり出されて、完全に畏縮してしまっている。

重く張りつめた空気の中、異邦人が一人、四苦八苦しながら下手なマヌ語で話しつづける。ララは横でハラハラしながらそれを見守るしかなかった。そのうちまわりに立っている官吏たちが、卑しい者を見るような目でカラスのことを見ているのに気づいた。が、本人は話すのに必死でまわりを振り返る余裕もない。アシュラムのほうを見ても、ここに入ってから一度も目をあわせてくれない。初対面のようにそ知らぬ顔をしている。ララはだんだん悲しくなってきた。

しばらくして、官吏の一人が下手くそなマヌ語に耐えきれずに吹き出した。王はそれに気づくと、叱責した。その途端、第三の目がうっすら光り、官吏は石のように硬直してばったり倒れてしまった。すぐに衛兵がそれを担いで片づけた。カラスは王の魔力を垣間見て、ますます動揺しているようだった。

あの目は作り物だと頑固に言い張っていたくせに──ララはそう思いながら、自分だけでもしっかりしなければ、と腹をくくった。

「もうよい。おまえたちの国の言葉で話せ」

王はさんざんマヌ語で話させたあと、流暢なトゥミス語で言った。奇妙な格好と化粧のせいで歳を判別しにくいが、若い感じの声だ。言葉がわかるなら、最初からそう言ってくれればいいのに。

苦労してマヌ語を話していたカラスは、顔を引きつらせている。相手が王でなければ、とっくに怒鳴り散らしていただろう。

王はララに視線を移して言った。

「その男は私に真実を伝えず、欺こうとした。本来なら舌を引き抜いてやるところだが、おまえが正直に話せば、抜かないでおいてやろう。赤い魔石をどこへやった?」
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