5 反逆者
カラスは手錠をかけられて、呪文が唱えられないように猿ぐつわをされていた。刀をさげた無表情なマヌ兵二人にはさまれて歩かされる。
建物を出ると、もうとっぷり日が暮れていた。城壁のむこうには黒い空が広がっていて、遠くで火山の火口が赤く光っているのが見える。広い芝生の庭に並んだ石の灯籠に火がともり、壮麗なヴァータナ宮殿を明るく照らしだしていた。太陽が出ていなくても、蒸し暑いのは変わらない。日中たっぷり貯えられていた熱が残っているのだ。
連れてこられたのは、昼間テロリストに爆破された監獄塔と対になった塔だ。少し離れたところに、崩れ落ちた塔の黒い影が見える。まわりにはまだ積み石が散乱していた。
塔の入り口の両開きの扉の前に、官吏が一人立っていた。腰に棍棒をぶらさげているが、服装は近衛兵とは違う。体つきも鍛え抜かれた兵士とは違い、ゆるみ気味だ。近よっていくと、ヒゲの濃そうなざらついた口もとに締まりのない笑みを浮かべた。
〈ご苦労様です〉
本人は自覚しているのかいないのか、あいさつしながら、もみ手をしている。兵士たちのほうは無愛想に命令した。
〈囚人を連れてきた。チタニア人の魔法使いで、名前はカラス。電撃を使う。罪状は、反逆罪。刑は決まり次第伝えるので、それまで第一級の房で勾留しておけ〉
この男はこの監獄塔の看守のようだ。看守は愛想笑いを絶やさずに、病人のようなカラスを横目で品定めしながら、
〈一級は満室ですよ。今、隣の塔で収まりきれなくなった囚人が、こっちに流れこんできてるんで〉
〈房が一杯なら、空きを作ればいい〉
〈ですが、それができないから満室なんですよ〉
看守が苦笑いしながら困ったように答えると、兵士は平然と言ってのけた。
〈殺してもいい囚人の一人や二人いるだろ〉
〈そんな無茶な! 死刑が決まってても、死刑執行の日は司法庁から通達されてるし、勝手になんてできませんよ。どうしても一級でなけりゃだめなら、ほかの囚人を二級に移し替えないと。そのためには司法庁の許可が必要なんです。それに近衛兵殿は、塔の使用許可証もお持ちでないようだし。司法庁で必要な書類を作って、もう一度お越しいただけませんか?〉
〈つべこべ言ってないでやれ。これは最優先事項なんだ。陛下が直々にこの囚人に関する全権を、近衛隊長に委ねた。司法庁の許可は必要ない〉
〈近衛隊長に? なにかあったんですか?〉
看守は怪訝そうな顔をして、また探るような目で囚人をじろじろ見た。カラスは兵士と看守が押し問答しているあいだ、これから料理される家畜のような顔をしていた。
〈よけいな詮索はするな。おまえはとにかくこいつを一級房にぶちこんで見張ってればいい。司法庁がなんて言ってきても、俺たちの指示なしに勝手なことはするなよ〉
〈ですが……〉
〈司法長官に逆らってもクビになるだけだが、陛下に逆らえば本物の生首になるぞ〉
看守はぞっとして、固唾を飲んだ。
〈承知しました。なんとかします〉
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