5章 反逆者 (4/5) ~ 氷男

駆けよっていくと、男は少し路地に入って倉庫のような建物の戸を開けた。両開きの結構大きな引き戸で、中は広い。木箱や樽が積んであって、その先になにやら見なれない生き物がいた。

クワッパと似ていていたが、それよりもふたまわりくらい大きくて、立派な翼がある。しっぽのかわりに長く美しい尾羽があり、頭のてっぺんに王冠のような金色の飾り羽が立っている。胴体は極彩色の羽に覆われていて、くちばしのように細く長い口をしていたが、やはり表面にはは虫類らしいウロコがあり、歯が生えている。そんな鳥とトカゲの中間のような巨大な生き物の背に、鞍と手綱がつけられていた。なぜだかギャーギャー鳴いて暴れていた。

ララは驚いて口ヒゲ男にたずねた。

「これ、飛ぶの?」

「飛ぶ。始祖鳥だよ。それよりアシュラムは?」

カラスとララは同時に答えた。

「死んだ! さっさと逃げよう」

「後から来る!」

『死んだ』と答えたのはカラスのほうだ。「酷い」とララはつぶやいた。

男はそれに答えることよりも、うるさく鳴いている始祖鳥のほうが気になったようだ。こんなに鳴かれては、兵士たちに気づかれてしまう。なだめようとして男が駆けよったとき、鳥の巨体から血が飛び散った。もがくように羽ばたいている翼の下から、なにかが突き刺さった傷口が見える。

「だれかいる!」

振り返って叫んだ途端、ヒゲ男の胸に杭のようなものが突き刺さった。それは倉庫の入り口からではなく、中のどこかから飛んできた。

その方向を見やると、積まれた木箱の陰から、ガラスのように透き通った甲冑に身を包んだ男があらわれた。肌は白く、髪は霜が降りたような銀髪だ。マヌ人ではない。だが男が口にしたのはマヌ語だった。

〈奴は来てないのか。残念だ。俺が殺りたかったのに〉

ずっと蒸し暑かったのに、ふと肌寒さを感じた。思わず身震いするような冷風が体をかすめる。

カラスは電撃を放った。が、銀髪の男はさっと身を引いて木箱の陰に隠れてしまった。その隙に、ララを連れて逃げようとした。

「待って。さっきの人が──」

ララは踏みとどまった。ヒゲ男が始祖鳥の足もとで倒れていた。まだ生きて動いている。

「助けなきゃ」

始祖鳥が地団駄を踏んで、今にも踏みつぶしそうだ。ヒゲ男は自力でそこから逃げられないくらい弱っている。胸に刺さった杭は、よく見ると透明な氷でできているようだった。そのあいだにも倉庫内の気温は急激に下がっていた。空気が冷却されて霧が漂いはじめる。驚くべきことに、息が白くなった。

「そんなの構ってられるか!」

カラスは叫び、力ずくに手を引っぱって、一目散に出口へと走りだした。

「フィアラ!」

ララが唱えると、握っていた手が熱くなり、カラスは反射的に手を放してしまった。ララは苦しんでいるヒゲ男の側に駆けよっていった。
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