5章 反逆者 (5/5) ~ 虹色の翼に乗って

始祖鳥はバサバサと羽音を立てながら、暗黒の夜空をぐんぐん昇っていった。虹色の翼越しに見おろすと、兵士たちが悔しそうな顔を上にむけている。それも見る見るうちに小さくなり、細い路地の至るところで、自分たちを探しまわっている追っ手の松明が行き来しているのが見渡せるようになった。そしてそれもさらに遠ざかると、わずかな街の灯りが、大海に浮かんだ漁り火のように見えるだけになった。

「すげえ……。飛んでる!」

カラスは感嘆の声をあげた。

始祖鳥は三人の逃亡者を背に、空を覆う厚い雲を突き抜け、月光に照らされた広大な雲海の上に舞いあがった。青白い満月が姿をあらわし、星を散りばめた天井が雲の水平線の彼方までつづいていた。雲の海面は風で波打ちながら、雪のようにうっすらと白光りしている。

「綺麗」

ララは天上の景色を見渡して、自分たちが追われていることすら忘れてしまったようだった。不思議と明るい星と雲の狭間を、始祖鳥はさっきとは打って変わって音もなく滑空した。

「これからどこに行く?」

カラスは風に吹きあげられたララの髪に顔をくすぐられながらたずねた。

「ティミトラのところだ。退役者組合の記録には残ってなかったが、彼女が使ってた私書箱が以前のままで、中身が転送された記録があった。トゥミス領のザレスバーグという街だ。今も彼女がそこにいるという保証はないが、行けばもっとくわしい手掛かりがつかめるだろう」

「そこって遠いの?」

「トゥミスの近くだから遠い。始祖鳥で大地の裂け目を越えて、その先は陸路で行く。六十日くらいはかかるだろう」

「このまま始祖鳥で行ったら?」

カラスは聞いた。飛んでいったほうが速そうだ。

「始祖鳥は人を乗せるとそんなに長い時間飛んでいられないんだ」

六十日もかかるのでは、そのあいだになにが起こっても不思議ではない。

さっきよりも少しは落ち着いて話ができる環境になったので、カラスは倉庫の中で中断してしまった話を持ちだした。

「さっきの話のつづきだけど、あの銀髪の男、俺たちが逃げてくるのを知ってたのかな? そういや、監房を見まわりにきた役人たちも密告があったなんて言ってたし。知ってたんだとしたら、なんで俺たちが監獄塔を出るときに来なかったんだ? あんなところで待ち伏せするより、そのほうが手っ取り早いし、あんだけ追っ手の兵士がいたのに、倉庫にいたのがあいつ一人だけってのも変だよな?」

「おかしいのはそれだけじゃない。あの男はイェルサーガの一員で氷男って呼ばれてる奴なんだが、イェルサーガは普通、王の勅令でしか動かない。それも指定された人間の暗殺が主な仕事だ」

「イェルサーガならティミトラとも知りあいなんじゃないか?」

「彼女の部下だった」

それなら、元部下が元上官の娘を殺そうとしたってことになる。でも氷男がねらっていたのは、ララではなく、アシュラムのようだった。

アシュラムは自分たちを逃がすために怪しいイェルサーガの隊員を殺してしまった。だが本当に怪しいのはどっちだ? アシュラムのやってることだって充分怪しい。本当にザレスバーグに行けばティミトラはいるのか?

カラスは疑問を抱えたまま、これまでのことに考えをめぐらせた。

ジャングルにいた三つ目の子供、赤い石の正体、自称革命家のドゥーモが言っていたこと、怪しい氷男と、怪しい近衛隊長の言ったこと──いろいろな情報が一度に頭の中を駆けめぐってはち切れそうだった。目の前ではララが懸命に目を見開いてまわりを見まわしている。この先一生出会えないかもしれない美しい風景から、一瞬でも目をそらしているのが惜しいようだ。話なんてほとんどそっちのけで、生き生きと顔を輝かせ、雲や夜空を目に焼きつけることに夢中になっている。

こいつはこんなんで大丈夫なんだろうか?

カラスがそう思ったとき、ララがなにかを見つけてアシュラムの背中を激しく叩いた。
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