6章 帳の中に策をめぐらし (3/3) ~ 怪しい人々

 

 

「……ばかばかしい。クレハが正気を失ったときのことを言っているのなら、もうケリはついたはずだ。おまえが気の済むまで調べて、疑わしきことはなにもないと言ったのだぞ」

ただでさえ立てこんでいるときに、過去のいざこざをほじくり返され、リュージュはますます不快感をつのらせていた。

「証拠はでなかったと申しただけです。ですが、陛下が即位されて一番得をしたのはアシュラムです。彼は宮廷で権力を手に入れるために、陛下を足がかりにしました」

リュージュは自分の名誉が傷つけられたかのように、シャンタンに険しい顔をむけた。

「アシュラムは私を守るためにわざわざ前線から引きあげてきたのだ」

「陛下のために失礼を承知で申しあげます。そのような甘いことばかり言っておられるから、いつまでもつけ入られるのです」

「口を謹め!」

鋭くそう叱責すると、第三の目が紫色に光った。シャンタンの衣が風もないのにかすかになびき、傷一つないはずの額から、一筋の血が流れ落ちた。しわがれた顔が、一瞬で凍りつく。流暢な口も、かたく閉じてしまった。

「今はアシュラムを捕まえて事情を聞くことだけに専念しろ。よけいなことをベラベラしゃべるな。ナーディル副隊長にもそう釘を刺しておけ」

「官吏や高官たちには今回のことを、どう説明しましょう?」

「おまえが最初に言った通りでいい。問題があったがすべて片づいた、ということに」

「わかりました」

部屋のドアを慌ただしくノックする音が聞こえた。

「だれだ? 今、取りこみ中だ」

シャンタンが顔についた血をハンカチでぬぐいながら言った。

「イスタファです」

イェルサーガの隊長だ。早い段階から手を借りることを決めていたので、自宅に使者を送って呼び出してあった。

「入れ」

リュージュが命じると、トカゲ顔をした眼帯の男が入ってきた。

彼は風を操る魔法使いで、始祖鳥を飛ばせたら右に出る者はいない。そのうえ、距離とは関係なく、視界に入る場所へなら一瞬で移動できる、という恐るべき能力を持っていた。猛禽のように空を旋回しながら獲物を探し、見つけた次の瞬間にはその獲物の背後に移動している──人間を狩る、神出鬼没のハンターだ。

「おまえにしては遅かったな。状況説明は受けたのか?」リュージュは言った。

「はい。外にいた近衛隊の副隊長から」

「氷男のことは残念だった」

氷男の死にはまだ疑問が残ったままだったが、リュージュは義務的にお悔やみを言った。イスタファは、王のそんな気遣いなど無用かと思えるほど顔色を変えなかった。

「さっき、バザールの倉庫にあった氷漬けの死体の身元がわかりました」

「どちら側の人間だ?」

「それが──奴の正体はワイアードだったんです。クレハ様に毒を飲ませたヤブ医者の」

「どういうことだ?」

「くわしいことはわかりませんが、氷男が攻撃したのですから、アシュラムの手引きをしていたのでしょう」

「では、ワイアードはアシュラムの手下ということか……」

「そう思われます」

シャンタンが『ほら見ろ、やっぱりな』という顔で、主君を見やった。

リュージュは欺かれたと知り、煮えたつ怒りで顔を歪めていた。

「なんとしてでも捕えろ」

「抵抗した場合、殺してもよろしいですか?」

イスタファはサラリと言う。リュージュは察しの悪い殺し屋をにらんだ。

「殺せ、とは言ってない。アシュラムはほかにも、青い魔石やクレハのことについて知っている可能性がある。そうでなくてもほかに仲間がいるだろう。死んだらなにも聞きだせん、それくらい考えろ」

「わかりました。任務に取りかかります」

イスタファは足早に部屋を出ていった。
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