8章 幼女と少女と女と老女 (2/3) ~ 馬と小さな鍵

 

 

紹介されたラースの店は、村で唯一の雑貨屋だった。陳列棚に並んだ商品はまばらで、そのほとんどは、何年も売れずにほこりをかぶっているようだった。なんの変哲もない素焼きの壷や、カビの生えた羊皮紙、錆びたノコギリ、役に立たないうえにかわいくもない木彫りの人形……などなど品ぞろえは一応豊富である。

店内を通って裏口から出たところに、屋根と囲いだけの馬屋があり、四頭の馬がつながれていた。少しでも馬を高く売りたい店主は、『この馬は千里の道を一晩で駆け抜けるように〝なるだろう〟』とか、『この馬なら巨象を乗せた荷車でも動かせる〝かもしれない〟』とか、一頭ごとにすごいのかすごくないのかよくわからない気弱な誇大広告のような説明をしていった。アシュラムは慣れた様子で馬を品定めして、店主の話が終わらないうちに栗毛と黒毛の二頭を選んだ。そのあとすぐに店の中で馬具選びに取りかかったが、ララとカラスは馬具にくわしくないので、その場に残って選んだ馬のことを見ていた。

つややかな毛並みの首に慎重に手をのばすと、馬の体温が伝わってくる。馬たちは大きな黒い瞳で不思議そうにこっちを見たり、そっぽをむいたり、ときどき鼻をブルブル鳴らしたりした。

「かわいいね」

ララが話しかけると、カラスもうなずいた。気に入ったのか、近くにあったブラシで馬の体を撫でるように毛を整えはじめた。馬は大人しくじっとしている。ララは生まれてこのかた馬に乗ったことはないが、カラスは昔親戚の家で乗せてもらったことがあると言っていた。

ララは選ばなかったほかの馬も見に行って、しばらくして、カラスがいなくなっているのに気づいた。店の中に戻ると、アシュラムは店主と商談中で、カラスは窓辺に立っていた。なにか見てニタニタしているので、気になって近づいていくと、カラスは嬉しそうに言った。

「ほら、見ろ。だからモテるって言ったろ?」

言われた通り窓の外をのぞいてみると、むかい側の家の窓から、さっきの農婦たちと、別の似たような農婦たちが数人、なにか楽しそうにおしゃべりしながらこちらの様子をうかがっていた。乾いた土壁に開いた正方形の穴から、色とりどりのターバンを巻いた女たちが、微笑を浮かべて身を乗り出している。この家の前にもぶどう棚の木陰があり、ほこりまみれの地面に直接敷かれた赤い絨毯の上で、ボロボロでうす汚れた白い犬が眠っていた。

カラスは馬鹿丸だしの笑いを浮かべて、むこう側に手を振った。すると女たちはなにか囁きあって、腹を抱えて笑いだした。

「あの人たち、アシュラムのこと見てたんだよ」

ララは教えてあげた。カラスが改めて視線の先をたどると、カウンターのところで店主から誇大妄想的な馬具の説明を受けているアシュラムがいた。女たちは邪魔なカラスの陰口を言って笑いあっていたのだ。

「なんだよ。紛らわしい」

カラスはばかばかしいという風に、窓の横の死角に入った。これで邪魔者はいなくなった。

「あの人たち、あんまりかわいくないよ」

ララは窓の外を見ながら言った。カラスはもう一度ちらりと窓の外に目を遣って、

「田舎娘なんてあんなもんなんじゃないの? 本気で自分のことかわいいと思ってんのかね」

やっぱりさっきの口説き文句は本気じゃなかったんだ。ララは安心して、満足げな笑みを浮かべた。が、外ではまだ農婦たちが笑いつづけている──こっちでなんと言われているかも知らずに。

そんな女たちを見てカラスは鼻で笑い返しているが、自分の連れが笑い者にされるのはやっぱり嫌な気分だ。ララはカラスの隣によりそって、自分の存在を主張するように手を握った。
次のページ