9章 オーロラの話 (2/2) ~ ドラゴン軍団

 

 

助けは来ないまま、そのままの状態で一週間経った。

とっくに爆音も怒号も泣き声も止んで、どちらも全滅してしまったかのように静かになっていた。それでもアシュラムは家の外に出ようとしなかった。動けるうちは床下から炊事場の水瓶まで這って水を飲み、壷に蓄えてあった生米を食べていた。傷が膿んで熱が出てくるとそれすらままならなくなり、一日中床下にいて、腐乱してウジがわいたジェダの死体のそばで、自分も死体のように転がっていた。便所にも行けないので、その場でしてしまうしかない。

ほんのつかの間、またあたりが騒がしくなった。外で人が走りまわる音、刀がぶつかりあう音や、砲撃の音もした。

それからまた静かになり、数人の人間が家の中に入ってきて、床板がきしんだ。

通常の精神状態だったら、足音が近づいてくるのを聞いて、喜ぶか怯えるかしただろう。がアシュラムには、その音が夢の中の音のようにしか聞こえなかった。自分の目の前で床板に斧が振りおろされても、まばたきもしなかった。一瞬、殺した女が生き返ったのかと思った。

壊された床板が持ちあがるのと同時に、アシュラムの胸に剣が突きつけられた。

そこに立っていたのは、白い肌をした赤毛の女だった。背後に同じく白い肌の男たちを従えている。チタニア人の傭兵たちだ。

女は剣を突きつけてもなんの反応もないアシュラムを見て、なまりのあるトゥミス語で仲間たちに言った。

〈ヴァータナ軍の兵士だ。担架で運んで、引き渡しておけ〉

ジェダの死体にも目をむけたが、女の心にはなんの感情も喚起されないようだった。女は冷徹な目つきのまま剣を収め、燃えるような赤毛をなびかせて去っていった。

それから傭兵たちの手でアシュラムは担架にのせられ、家の外に運び出された。道にはクワッパーが停まっていて、屋根のない荷車に、ハエのたかった死体が山積みになっていた。敵も味方もマヌ人もチタニア人も、全部ごちゃ混ぜだ。傭兵たちにとっては、きっと死体の区別なんてどうだっていいんだろう。

崩れ落ちた寺院の陰で、銀髪の魔法使いが捕虜の手足を生きたまま凍らせて、ハンマーで叩き割って遊んでいた。男は笑いながらハンマーをまわりの仲間にもまわし、その集団は大いに盛りあがっていた。

アシュラムは自分も捕虜になってあんなことをされるのか……と思いかけたが、よく見るとその捕虜はマチュルク軍の兵士のようだった。ということは、このチタニア人たちはマチュルク軍の傭兵ではないということになる。
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