10章 刃 (2/2) ~ 歪んだ鏡

急いでたき火をした場所に駆けつけると、鏡のマントをまとったマヌ人の男が、ララを後ろから抱えこんで、頭に銃を突きつけていた。やぶの中から、斧やナタを持った体格のいい男たちが数人あらわれて、まっ先に駆けつけて刀を構えたアシュラムを取りかこんだ。そちらの男たちのほうは野盗のたぐいというより農夫のようで、エンゾの自警団員のようだった。

「もう一人はどこだ?」

アシュラムの隣にカラスはいない。気づいたのも走りだしたのもアシュラムのほうが早かったので、構わず先に来てしまったのだ。アシュラムは振り返らず、

「ここにはいない。途中で別れた」

と答えた。男は顔をしかめた。

「いないはずない。毛布が三枚敷いてある」

「一枚足りないから俺は毛布をかぶって寝られなかったんだ。馬は二頭しかいないだろ?」

マントの男は警戒を解かなかったが、いらついた顔で馬を見て、それ以上追求しなかった。

「ガキを殺されたくなかったら魔石をよこせ」

「その前に彼女をこっちによこせ。でないと石は渡せない」

「言っておくが、この引き金は軽いぜ」

男はなんの躊躇もない様子で、銃口をララの赤毛に埋めてグリグリ押しつけた。首を腕でがっちり締めつけられ、ララは怯えた目で助けを求めている。

「その子が必要なんだ。石はもうとっくにほかの奴に渡してある。彼女がいないと、そいつから石を受け取れない」

男はアシュラムの目を見て真偽を探ろうとしている。

「嘘だ」

「本当だ。殺したら手に入らなくなる」

ララを抱えこんだまま、男は銃口をアシュラムにむけた。

「じゃあ、手に入る方法を教えろ」

「そっちが返したら教える」

「十数えるうちに言わなけりゃ、おまえを殺す」

男はそう言って相手をにらみながら、一から数えはじめた。だが、二、三、四……と数え進めても、アシュラムの表情は不気味なほど変わらない。八まで数えたところで、ララのほうがどうにかしようと口を開いた。

「私……」

そのとき、男の太ももから刀が飛び出し、静電気のような音がした。カラスが背後から鏡のマントを貫き、刀を通して電流を流したのだ。

倒れた男の陰からあらわれたカラスを見て、まわりの農夫たちは怯んだようだ。男に触れられていたララも巻きぞえで感電してしまっている。

アシュラムはまだ農夫たちにかこまれていたが、人質がいなくなった今、刀の間合いに踏みこんでまで、農具で襲いかかろうとする者はいなかった。カラスが血のついた刀を引き抜いて、派手に火花を散らして威嚇すると、声をかけあってあっさり引きあげてしまった。

カラスは気絶しているララを男から引き離して聞いた。

「逃げたと思った?」

アシュラムは刀をしまいながら「いいや」と首を振り、「来ると思ったから時間稼ぎした」と言った。カラスはそれを聞いてニヤリと笑った。

突っ伏している男の髪をつかんで顔を確認する。

「ジャングルで襲ってきたのはこいつだ!」
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