11章 デビルズ・マッシュルーム (3/3) ~ 白昼夢劇場

 

 

数週間後、リュンケウスは頼んでおいた仕事の進行状況を確認するために〝白昼夢劇場〟を訪れた。

劇場の正面は白大理石の広い階段になっていて、半裸の女神の形をした柱が、張り出した天井を支えている。階段の前に馬車を横づけすると、出入り口の前で、裸足で垢まみれの男が、演説口調でわめき散らしていた。

「おまえらは全員、〝悪魔のペニス〟に犯されてる豚だ! 暴君を殺せ! 悪魔をトゥミスから追い出せ!」

たぶん悪魔のキノコのことを言っているのだろう。近頃多い薬物中毒者のようなので、客は避けて通りすぎている。すぐに劇場の中から強面の従業員が出てきて、男を人気のない暗がりへ連れていった。

それから、座長の用意していた案内役があわてて馬車の前に駆けつけた。

「見苦しいところを、申し訳ございません」

用意されていた席は、二階にある観劇用の特別室だった。舞台のまっ正面のちょうどいい位置にある。観劇のための部屋なので暗くてこじんまりしているが、馬蹄型に並んだほかのボックス席よりは少し広く、壁は深い緋色の布張りだった。入り口の横にある金縁の鏡も、裸のニンフをかたどった象牙の燭台も、しつらえられた調度品は、享楽的な雰囲気を煽る贅沢なものばかりだった。舞台にむけられた赤いビロードのソファーの横に、酒を置ける小さな象眼細工のテーブルがある。

演目は『プリモス古城の戦い』。同じ話でも、演出家によって微妙に異なる版がいくつもあり、今回のは三日前に公開されたばかりの新作だった。客の入りはいい。

劇中では、リュンケウスは勇敢で才知あふれる英雄として描かれ、グレナデンは馬鹿で見栄っぱりな野蛮人だった。イスノメドラはそんな二人の男を同時に誘惑する妖艶な魔女だ。

グレナデンが魔女に骨抜きにされているあいだに、リュンケウスは残忍な悪の権化キルクークの居場所を突き止め、たった一人で壮絶な戦いを繰り広げる。

乱闘シーンの立ちまわりは見物だ。オーケストラの演奏も緊迫感があっていい。

リュンケウスがキルクークの首をはね、勢いよく血糊が吹き出すと、観客から歓声があがった。

幕が下りると、座長のプルートスが部屋に入ってきた。ひどい肥満にスキンヘッドの醜男で、まぶたが腫れぼったく、目に光がない。首の後ろの肉がだぶついているところなど、見るに耐えない。でも今日は彼に用件があってここに来た。

「いかがでしたか先生?」

座長はリュンケウスのことを敬称で『先生』と呼ぶ。が、べつに師弟関係ではない。政治家を先生と呼ぶのと同じだ。彼が座長になる前にやっていた仕事で、少しばかり貸しはあるが。

リュンケウスは拍手しながら言った。

「素晴らしい!」

演劇はトゥミスの華だ。生活のための労働が奴隷や非市民の仕事になってから、この都市では余暇のある市民のあいだで、芸術や文学など様々な文化が一斉に花開いた。中でも演劇は、絵画・音楽・服飾・文学、そして時には科学も、あらゆる分野が集約された総合芸術だ。

「脚本家が話したがっているのですが。今人気の若手です」

「構わないよ、通しても」
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