11章 デビルズ・マッシュルーム (3/3) ~ 白昼夢劇場

座長が声をかけると、青年が一人緊張した様子で入ってきた。金髪を肩までのばし、明るい緑色の短めのマントを羽織って、上から下まで流行の装いだった。本人も役者のように魅力ある顔立ちで、リュンケウスの前に進み出ると感じのいい笑顔であいさつした。

「脚本を書かせていただいたシセロです。本物の物語の主人公とお会いできるなんて、感激です。かなり脚色してあるから、苦情を言われるんじゃないかって不安だったんですが、気に入ってもらえたみたいでよかった」

「観客の心をつかむために脚色は必要だ。特に君はセンスがいい。君には人物の本質を見抜く天賦の才があるみたいだ」

「本当ですか!? 実は批評家の方々にもそう言われるんです」

それを聞いて、リュンケウスは思わず笑ってしまった。自分で言う奴があるか。そもそも、批評家どもが、俺やグレナデンやイスノメドラのなにを知ってるって言うんだ?

芝居がおもしろいかどうか決めるのは、作家や批評家じゃなくて、観客だ。作品が優れていようといまいと、芝居の上演回数を決めるのは、客席からの拍手の数なのだ。その点、彼は評論家やパトロンだけでなく、客の心をくすぐるツボもわかっているようだった。

「今ちょうど、この話の続編に使えそうなネタがあるんだ。形になたったら、ぜひ君に脚本化を依頼したい」

「作家活動もなさってるんですか?」

シセロは意外そうに目を見開いた。

「創作じゃあない。これから起こることが原案になる」

リュンケウスは意味ありげに笑い、

「君に話せる日が来るのが待ち遠しいよ」と言った。

「私もです」

「よかったら今度家に遊びにくるといい。ハリボテじゃなくて、本物の邸宅を見たいだろう?」

「いいんですか?」

「参考にしてくれ」

「ありがとうございます」

シセロは感極まってひざまずき、リュンケウスの手に敬愛のキスした。若い脚本家は唇を離す前に、ほんの一瞬色気のある目つきで相手を見上げた。彼はその後も丁寧に礼を言い、喜びいさんで出ていった。

世渡りの上手そうな美青年がいなくなってしまうと、リュンケウスは残った醜男と二人きりになった。

この醜男には、座長以外に、もっと凶悪な裏の顔がある。ダリウスというもう一つの名を名乗り、マヌ王国から、ブルーライトと呼ばれる麻薬を密輸入しているのである。プルートスとどちらが本名だかわからなかったが、どちらも偽名のようにも思える。とにかく、このトゥミスで彼の名前を二つとも知っている人間は一握りしかいなかった。

ブルーライトの原料となるのは、ヒカリ草という植物だ。一見しただけでは区別できないほどホタル草と酷似していて、野生ではホタル草の花畑に紛れこんで生息している。ヒカリ草の花には猛毒があり、その毒を加工すると依存性の高い麻薬になる。だが、花は一年中暑い場所でないと、十分な毒性を持たない。大地の裂け目の東側は、ほぼその条件にあてはまるので、ヒカリ草の栽培に持ってこいだった。

マヌ王国のテロリストは、ジャングルでヒカリ草を栽培して活動資金を得ている。ダリウスはマヌで傭兵だった経験があるので、むこうの勝手を知っていて、いち早く彼らの商売に目をつけたのだ。今では、テロリストたちから輸出用のブルーライトを独占的に買いつけていて、トゥミスの闇市場を影で牛耳っていた。

リュンケウスは聞きたかった本題を切り出した。

「火の石は手に入ったか?」
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