12章 おまけ (1/1) ~ オアシスの祭り

12 おまけ

 

 

切り立った岩の渓谷を越えると、見渡す限り石ころだらけの荒野が広がっていた。雲一つない青空と、赤茶けた地平線を、陽炎がつないでいる。ひからびた大地には、乾いた草が点々と生え、時々タマリスクが桃色の花を咲かせている。焼けた石の上を横切るトカゲと、自分たちの影以外、動くものは見当たらない。

ララとカラスとアシュラムの三人は、頭に原色のターバンを巻き、殺伐とした大地を馬で突き進んだ。動くたびに大きな革袋に入った水がタポタポ音をたてる。飲んでも飲んでもすぐにのどが渇いてしまうのだが、水は限られているので、三人ともぎりぎりまで我慢してからしか飲まなかった。乾燥地帯に入ってから昼夜問わず、のどと鼻の奥がヒリヒリしている。でも汗をかくような暑さは日中だけなので、それだけは救いだ。

焼けた鉄球のような夕日が地の果てに沈んでしまうと、沙漠は一変して寒くなる。空は一人の人間が一生かかっても数えきれないような星で埋めつくされ、冷たい風はなににもさえぎられることなく、どこまでも吹きつづける。明かりと暖をとるにはたき火をするのが一番だ。が、開けた場所で火を燃やすと空から見たときとても目立つので、沙漠にいるあいだはできるだけ火は使わないようにしていた。エンゾを出てから一度も襲われていなかったが、念のため上空からの追っ手を警戒して、毛布だけで寒さをしのぐ。

鼻の先まで毛布に包まって、星明かりの下で目をこらすと、平坦な大地は灰が降り積もった焦土のようだった。そんななにもない沙漠の夜の真ん中で、三人は起きているあいだ中、自分以外の生命の存在を確かめあうように声をかけあっていた。風が吹いてあまり寒いと、身をよせあうこともあり、そうすると相手の息づかいまで聞き取れた。

いるのが沙漠でなくても、三人が落ち着いて会話するのは決まって夜だった。昼間は馬を走らせていて声が聞き取りにくいので、自然とそうなる。森の中や隠れる岩場がたくさんあるような場所では、とくに火だけを気にしていても大して意味がなかったので、遠慮なくたき火をしていた。夕食をとってから、移動の疲れで眠ってしまうまでの数時間、闇に舞いあがる火の粉を見つめながら話すのは、本当にたわいもない笑い話ばかりだった。

ララはいつも一番先に寝ついてしまい、一度だけ、カラスとアシュラムが刀をぶつけあっている音で目を覚ましたことがあった。使っているのが真剣なので、間違って本当に斬りあってしまわないか心配になった。アシュラムは余裕で大丈夫と言って実演して見せ、カラスはこのほうがスリルがあっていいなんて言う。本当に技術は確かなようだったが、やっぱり寝ているあいだに死なれたら嫌なので、ララはやるならせめて自分が見ている前でだけやって、と二人に頼んだ。それ以来、ララは刀の音で起こされたことはない。それでも、朝目が覚めると二人が死体になっていて、ひとりぼっちで見知らぬ土地に取り残される夢を見たことはある。

それから、ララたちがいつもとはちょっと違う夜を過ごしたのは、沙漠を進みつづけて三日後のことだった。のどの乾きと戦いつづけてやっとたどり着いたオアシスで、偶然祭りに出くわしたのだ。

そのオアシスはそこそこ大きな街なのに城壁らしい城壁がなく、かわりにポプラの並木が道を作って旅人を迎え入れていた。周囲には瓜やナツメヤシの畑が広がり、地べたに瓜を山のように積みあげて安く売っている人がちらほらいた。ララはまっ先に飛びついた。すべすべした瓜をナイフで切り分けて頬張ると、甘い汁が滴って手も口もベトベトになった。

街の建物は全部荒野と同じ赤茶けた土壁だ。それぞれの民家は一見乾ききって質素に見えるが、土壁のむこうには、鮮やかな絨毯を敷いた緑の中庭がある。

街角にはこの日のためにちょうちんが吊るしてあり、広くて未舗装のメインストリートは、地元の人間と祭り目当ての客でごった返している。

そこに着いたのは夕暮れ時で、祭りはすでにはじまっていた。
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