12章 おまけ (1/1) ~ オアシスの祭り

心が浮き立つような祭り囃子が耳をくすぐったが、ここでの目的は休息をとることだったので、なにはともあれ宿探しをはじめた。せっかく街に来たのだから、思う存分水浴びをして、ベッドの上で寝たかったのだ。しかし、目につく宿はどこも祭りの客で満室だった。五軒目に入った裏通りの宿で、なんとか寝床が見つかった。ただし、通されたのは部屋ではなく、屋上だ。

「雨なんて滅多に降らないから大丈夫」

案内してくれた太ったおばさんは、当たり前のようにそう言い、たくましい太腕で干し草の塊を屋上に三個並べると、その上にシーツをかけた。あっという間に、即席ベッドの完成だ。やっと見つけた宿だったので、だれも文句は言わなかった。

馬は厩につなぎ、夕食をとりに街に出た。明日に備えて休むなら、寄り道せずにすぐ帰って寝たほうがいい。けれど、食事をしながら活気づく街を見ていたら、ララはせっかくの祭りなのに宿でじっとしているなんてつまらないな、と思った。腹ごしらえをして少し体力が戻ったら、ほかの二人も同じ気分になったようだ。少し祭りを見物してから戻ることにした。

ぶらぶらと通りを散策しはじめると、いたるところで演奏している旅まわりの楽士や、この辺の民族衣装を着た田舎娘たちのダンスが目を引いた。娘たちはみな、頬に色粉を塗りすぎるほど塗り、頭にスカーフを巻き、大きなイヤリングをつけておめかししていた。青や緑やオレンジの、色とりどりの長いスカートを履いてくるくるまわる姿は、小川を流れる花のようだ。魅力的なメロディー。見慣れないおやつ。バザールの露店からは、食欲をそそる匂いが立ちのぼっている。シシカバブにサボテンのシロップ漬け、まっ赤なスープの麺料理や、なんだかわからない巨大な魚の蒲焼き……。三人は安い地酒も飲みかわしながら、見知らぬ街の喧噪の中をそぞろ歩いた。雑踏から立ちのぼる浮かれた空気を吸い、灯りに引きよせられる蛾のように、行く先々でいろいろなものに引きよせられる。そんな風に、あちこち見歩いたり、飲んだり、騒いだり、踊ったりしているうちに、予想以上に盛りあがってしまい、楽しい時間はあっという間に流れていった。

結局、ララたちが宿に戻りはじめたのは、フィナーレのパレードが終わったあとだった。それもだれかが言いだしたというのではなく、なんとなくその場の雰囲気だ。もうとっくに深夜になっていて、建物の屋根の近くに爪のような細い月が出ていた。パレードの最後尾が通り過ぎていくと、路肩を埋めつくしていた人垣も、自分たちと同じようにばらけていく。

ララはまだ、御輿にのった豊穣の女神や、牛同士の闘牛や、派手な爆音とともに打ちあげられた花火を思い出して、興奮していた。燃え殻の奥でくすぶる炎のように、体中が熱くなったままだ。

「明日も明後日も、ずっとお祭りだったらいいのに……」

これで終わりなのかと思うと寂しい気がした。まだまだ元気だし、遊んでいたい。

街路にはまだ家に帰らずにたむろしている人も大勢いた。道路に座ったり、土壁によりかかったり、とくになにかをしている様子ではなかったが、祭りの夜をどうにかして少しでも長く楽しんでいたいようだった。酔いつぶれて吐いてる人もいたし、どこからか陶器の割れる音や、怒鳴り声も聞こえてくる。ちょうちんの明かりは点されたままだ。夜が明けたら、そんな余韻もすっかり消え去ってしまうだろう。

宿にむかう道中、三人は千鳥足だった。体が浮きあがってしまいそうにふわふわする。ほてった体を、夜風が心地よくなでていく。

宿が近づくにつれ、人気や明かりは減って、暗闇と静けさが増していった。ふざけてアシュラムによりかかっていたカラスは、「うっとうしいっ」と言われて突き飛ばされてしまった。でも、突き飛ばしたほうも口で言うほど嫌がっている様子ではなく、顔は笑っている。カラスは大げさによろめいて、ララにも同じことをしようとして逃げられると、今度は歩きながら、変な替え歌を歌いはじめた。ララもアシュラムも元の歌を知らなかったが、内容がおかしかったので腹がよじれるほど笑った。

つづいてララが、自分の好きな明るくてテンポのいい歌を歌った。ちょうどそれが終わった頃宿に着いた。干し草ベッドを三つくっつけてその上に座り、別に決めたわけではないが、当然の流れで「アシュラムも歌ってよ」ということになった。
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