12章 おまけ (1/1) ~ オアシスの祭り

「生まれてくることに意味って必要なの?」

「ねえよ。避妊に失敗するとガキが生まれる」

カラスはふざけて答えた。

「じゃあ、私たちってよけいなものなの?」

「人生なんて、欲しいとも言ってないのに、勝手についてくるオマケみたいなもんさ。気に入らなくても、捨てるほどでもないから、仕方なく使ってる。意味なんてねえよ」

そう言って、クックッと笑いだす。もしかしたら、カラスは本当に避妊に失敗して生まれた子供なんだろうか? 私もそうなんだろうか? と、ララは思った。

「違うよ。生きることはオマケなんかじゃない。この世に生まれてきたからには、なにかその人にしかできないような役割が……」

「ねえよ。全部妄想だ。おまえは洗脳されてるんだ」

カラスはまたしてもアシュラムの言葉をさえぎった。

「意味も役割も生きる価値もない人間でも、人は飯さえ食えれば生きていける。世の中に生きてる大半が、そういう奴だ」

まだ一人で笑いつづけてる。なにがそんなにおかしいんだかわからない。

カラスはなにもかも無意味と言いきることで、納得できないものを、無理矢理納得しようとしているように見えた。

ララはなんとなく、以前おばあちゃんが言っていたことを思い出していた。

たとえ望まれずに生まれてきた子供でも、立派な大人になって幸せになれる人はいる。逆に恵まれた星の下に生まれても、生きることに希望を見出せずに、自殺してしまう人もいる。あらがえない運命の力で、どんな貧乏くじを引いてしまったとしても、幸せな一生を送れるか、不幸な一生を送るかは、結局は自分自身にかかっている。

ララは、心配そうな顔をしているアシュラムに話しかけた。

「ねえ、長い旅は無理かもしれないけど、もし暇ができたら、一緒にチタニアに遊びに行こうよ」

「そーいや、オーロラの話してたよな。俺は絶対夏のほうがいいと思うけど」

「夏は花畑がすごく綺麗なんだよ。エレネスとか、フュリーネとか……って言ってもわかんないか。とにかく、いろんなのがそこらじゅうに咲いてるの」

「ホタル草もある?」アシュラムが聞いた。

「あるよ。魔の森の中に、ホタル草の花畑があるの。ホタル草が好きなんだね」

「俺の好きな人が好きだった」

「それ、彼女? それとも片思い?」

ララはニヤニヤしてからかった。

「そういうのじゃないよ。幼なじみで、マヤっていう──画家なんだ。よくホタル草の絵を描いてた」

「その人って、今ヴァータナにいるの?」

「去年、首吊って自殺した」

アシュラムは無機質な声で言った。

「ごめん……茶化しちゃって」

「こっちこそ、ごめんね」

アシュラムは申し訳なさそうに縮こまっているララにむかって、弱々しい笑みを投げかけた。カラスは暗い過去についてはたずねず、元気づけるように言った。

「いつかチタニアに来れることがあったら来なよ。行きたくなったらさ。俺はその時なにしてるかわかんねえけど、たぶん大したことやってねえだろうから、いつでも案内するよ」

「どうやって連絡とるの?」

「生きてりゃなんとかなるだろ」

なにもかも思いつきの行き当たりばったりだ。

「探すよ」アシュラムは言った。

「私も行く!」

「当たり前だ。おまえしか花畑の場所知らねえんだから」

現実感のない約束だったが、だれもその不安を口に出さなかった。

三人は仰向けになって、手をのばしたら届きそうで届かない遥か彼方の星空を見あげた。空気が澄んでいるので星の輝きが強い。さえぎる雲は一つもなかった。

夜の微風にのって、どこかから笑いあう声が聞こえてくる。なんだかわからないけど、楽しそうだ。

「カラス。なにか笑える歌、歌ってくれ」

「いきなり言われてもなあ」

困りながらもカラスはがんばって歌いだした。でも、歌っているあいだに酔いが覚めて、大しておもしろくないことに気づいてしまい、自分で歌いながら苦笑いしていた。アシュラムはそんな歌でも声をあげて笑っている。

ララはなんだか眠くなってしまい、歌が終わらないうちに眠ってしまった。