13章 再会 (2/4) ~ スパイ

  * * *

 

 

血の味がする。

目覚めた瞬間に、ララはそう思った。でも口の中はどこも傷ついていない。

横をむくと、ママの顔があり、青い両目で見つめられていた。目尻から横向きに涙が流れた痕が、ロウソクの明かりでかすかに光っている。

ララはベッドの上で、念願のママに抱きしめられていた。

「ママ……」

手を伸ばして、懐かしい匂いのする胸に顔を埋めた。ずっと求めていた温もりに包まれて、心地よくまどろみながら至福の笑みを浮かべた。

しばらくして、どこか別の部屋から男の悲鳴が聞こえてきた。

ララはドキリとして飛び起きた。それから自分がいつ眠ってしまったのか、記憶がないことにも気がついた。

「さっきの声、なに!?」

安堵感が一気に胸騒ぎに取ってかわった。

起きて部屋を見渡してみてはじめて、カラスが床に転がっていることに気づいた。こちらに背をむけ、死んだように動かない。手首を後ろ手に縛られ、腰にさした刀とナイフもなくなっている。

「カラス」

呼びかけても反応がない。

ララはわけがわからず、ベッドからおりて近よっていった。

「心配しないで。眠ってるだけだから」

ママからそう言われても、カラスの口もとには血がついている。

また血を吐いたんだろうか?

「カラス!」

ララは固く結ばれた縄を必死で解き、祈るような思いで揺さぶった。力ない体が、されるがままにひっくり返っただけで、血の気の引いた顔にはなんの変化もなく、起きてはこない。

ララは思わずカラスを抱きしめて、泣きじゃくった。

「ララ、どうして泣くの?」

すぐそばまで歩みよってくると、ティミトラは自分まで泣きそうな表情になって、かがみこんだ。

「眠ってるだけなんだよ? すぐに起きるんだよ?」

そうは聞かされても、血を吐いているし、本当に死んでるみたいに見えたし、動揺を止められなかったのだ。

そのとき、またさっきと同じ悲鳴が聞こえてきて、今度はそれがアシュラムの声だとわかった。

「アシュラム!? アシュラムはどうしたの?」

ララが問いかけると、ティミトラは切なげな目をして、捕らえるように抱きついてきた。

「ララはなにも心配しなくていいの。すぐに終わるから、大丈夫だからね」

「なにが終わるの?」

「ララはなにも見ないで、なにも知らないままでいいの。全部終わったら、ママと二人で普通に幸せに暮らそうね」

ティミトラはそう言って強引に笑みを作った。

ますます嫌な感じがした──さっきから悲鳴が聞こえてるのに、ママはなんだか変だ。全然大丈夫なんかじゃない。

ララの差し迫った鋭い目が、相手の腰にさがったプリモスの銃をとらえた。鏡のマントの男が持っていたのと同じ銃だ。ララは身をあずけるふりをして銃を抜き取り、母親を突き放した。

「ララ! 行っちゃダメ!」

制止を無視して部屋を出ると、声のするドアを開け、銃を構えた。
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