13章 再会 (2/4) ~ スパイ

カラスは電撃を飛ばすような仕草をしたが、なにも出てこなかった。天井からその様子を見ていた少年が手を叩いて笑いだした。

「飲みすぎで寝ボケてんじゃないか?」

「アシュラムの血を飲まされてるの」ララは教えた。

「口のまわりが血まみれなのに、気づかなかったのか?」

少年に言われてカラスは口もとを拭い、血を見て顔をしかめた。

「アシュラム! 大丈夫か?」

「……大丈夫だ……」

小さな声で返事が返ってきた。見れば大丈夫じゃないのがわかるのに、聞くほうも聞くほうだし、答えるほうも答えるほうだ。

「どうなってんだよ、これは?」

カラスはティミトラに詰めよった。彼女は動じない。仕方なしとばかりに、説明をはじめた。

「アシュラムは裏切り者よ。罪人を脱獄させたうえ、イェルサーガの隊員を殺し、クレハ様に毒を盛った暗殺者とも裏で手を組んでた。私はイェルサーガの元隊長として、反逆者の逮捕に協力したの」

「でも、アシュラムがいなかったら私たち、殺されてたかもしれないんだよ? 助けてくれたのに、こんなことするなんて酷いよ!」

ララが訴っえても、ティミトラの険しい表情は変わらなかった。

「疑えるものはなんでも疑わなければならない状況なの。トゥミスにいる武器商人の手もとに、レネの兵器を動かすための魔石がすでに三つそろってる。そんな中、彼は味方を出し抜いて、このザレスバーグまで石を運んだ。ここからトゥミスまではすぐそこよ」

「ここまで来たのは石をママに届けるためでしょ。ちゃんと渡してるじゃない」

「石は国王陛下に献上する」

「なんだよ、それ。それじゃ俺たちが苦労してここまで来たのは無駄だったってことか?」

「ララがいるから無駄じゃないけど、よけいなこともしてくれたわ」

「ざけんじゃねえよ。だいたい、あんたなんでそんなに敵のことにくわしいんだ? それにアシュラムが暗殺者とつるんでたって、なんのことだよ?」

カラスはやったことを否定されて、早くもケンカ腰だ。

「私はイェルサーガを抜けたあとも、スパイとしてトゥミスの要人のそばに潜入して、ヴァータナの高官と連絡を取りあっているの。だからもうだれが黒幕かわかってるし、むこうで動く下準備も整えてある。秘密裏に事を進めたのは、彼みたいな裏切り者に知られたら困るからよ。クレハ様がワイアードって医者のせいで廃人になったってことは知ってる?」

カラスはうなずいた。

「あなたたちがヴァータナから逃げるときに手引きをしたヒゲの男が、ワイアードよ」
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