13章 再会 (2/4) ~ スパイ

カラスもララも真実を確かめたくて、アシュラムを見た。アシュラムは顔をあげ、二人を見て言った。

「彼女の言う通り、俺はワイアードの手を借りた。前から彼の居所を知ってて保護してた。クレハ様を殺そうとしたのは、彼でも俺でもないからだ」

「おまえ……」急に真相を告げられてカラスは怒っている。今さら言われても白々しい言い逃れにしか聞こえない。それからカラスはまたティミトラのほうにむき直り、

「でも、それとこれとは別の話だろ?」と言った。

「つけ入る隙のある人間は、なんにでも利用できるでしょう。アシュラムだってそうよ。クレハ様の暗殺を謀ったのが彼なら、殺し損なった相手を消したがってただろうし、保身のためならなんだってするんじゃない?」

「俺はそんなことはしてない」とアシュラム。

「俺たちはダリウスって奴の手下に襲われた。こいつが仲間なら襲わねえだろ?」

「下っぱだからくわしい事情を知らなかったんじゃないの?」

カラスは言葉に詰まってしまい、そのときの記憶を手繰りよせた。

エンゾの湖畔で片づけた鏡のマントの男は、自分のボスの顔すら知らなかった。トゥミス人だと言っていたが、会ったことがないのだからそれだって確かではない。ひょっとしたら、ダリウスの正体はアシュラムかもしれない。

「これは余談だけど、アシュラムのいた黒竜山の道場には、昔から秘伝の黒法典が受け継がれているって噂がある」

「ただの噂だ」

カラスは、アシュラムとティミトラの顔を見比べた──どっちの言い分が正しい?

「アシュラムはこれからどうなるんだ?」

「ヴァータナに連れ帰って尋問をつづける。裏切りの証拠が出れば処刑されるでしょう。今回ばかりは、国王がかばっても、かばいきれない」

「証拠は出ない。なにもやってないんだからな。俺もワイアードも、本当の犯人にはめられたんだ。たぶん──」

言い終わらないうちに、イスタファがアシュラムの左耳のつけ根を殴った。

『汚名を着せられる覚悟はできてる』と宣言していた割には往生際が悪い。

カラスは嘘くさい言い訳をつづける元近衛隊長の目をじっと見すえたあと、憎々しげにつぶやいた。

「さっさと殺してほしいもんだね。善人面して今までだましてたんだからな」

「違う」

「許せねえ……」

カラスはティミトラの横をすり抜けて、アシュラムを椅子ごと押し倒し、殴りかかった。横にいたイスタファはおもしろがっているのか、囚人同士のケンカを止めなかった。が、カラスが、アシュラムではなく、椅子のほうを破壊しようとしているのに気づき、天井にいた少年が「あっ!」と声をあげた。

木製の背もたれが砕けて、縄が解けた。イスタファもすぐさま刀を抜く。カラスは少年がとっさにかけた魔法のせいで天井にむかって落下し、立ちあがりかけたアシュラムの首には刀が突きつけられた。ティミトラは手の上に炎の塊を作って、天井にいるカラスをいつでも焼き殺せるようにねらいをつけ、同時にアシュラムには銃口をむけていた。カラスは杭のようにとがった木片の先を、少年にむけている。
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