13章 再会 (4/4) ~ 告白

 

 

雪のような白い砂浜に、漆黒の波が打ちよせる。

見渡す限り、夜空の闇をさらに煮詰めたような大海原。風はその先から吹いてくる。

そんなこの世のものとは思えない潮風に髪をなびかせながら、カラスは裸足で波打ち際をほっつき歩いた。足の裏から、ひんやりとざらついた砂の感触が伝わってくる。波がぎりぎりのところまで押しよせてきて、触れることなく海へと引き戻されていく。ときどき高い波がきて、足もとをさらっていく。白い泡がシュワシュワ音を立てて弾け、優しく足をなでていく。夏とはいえ、夜なので水は冷たい。でも、自分の立ってる地面が崩れていく感じは、心地よかった。

カラスは波と一緒に引きよせられるように、海の中へと歩いていった。一歩一歩沈んでいく。なんとなく、どこまで行けるか試してみたくなった。

海水が胸の下あたりまできたとき、背後から声がした。

「カラス!」

振り返ると、波打ち際にララが立っていた。

なんでここにいるんだろう?

不思議に思いつつ、手を振った。波が押しよせてくると、脇のあたりまで飲みこまれる。立ち止まっていても、引き潮で沖へ沖へと流されているようだった。カラスはまた行く手に視線を戻した。

「待って」

ララが水しぶきをあげながら追いかけてきた。背が低いのですぐに体が水に沈んでしまう。両手で水を掻き分けるようにして、やっとのことで追いついた。肩まで水に浸かってしまっている。

「なにしてるの?」

ララはそう言ったが、それだけ聞きたくてわざわざ海に入ってきたわけじゃないだろう。息を切らして慌てて駆けつけてきたところを見ると、入水自殺でもしているとでも思ったのかもしれない。引き止めるように腕をつかんで、心配そうな顔をしている。

「おまえこそ、なにしてんだ?」

するとララはなにか言い訳を探すように、あさってのほうを見て、

「散歩」と答えた。

ちょうどそのとき、波が押しよせてララの鼻を洗っていった。ララはつま先立ちでカラスにしがみついた。

「しょっぱい!」

顔をしわくちゃにして、鼻水もヨダレもだらだら流しながら、塩水を吐き出した。髪が海藻のように顔にへばりついている。カラスはそれを見て笑った。

「嘘だね。本当は俺のことつけて来たんだろ?」

ララはいたずらが見つかってしまった子供のように、ちらっとカラスの顔色をうかがった。怒っているわけではないとわかると、恥ずかしそうに「うん」とうなずいた。

また遠くから波が迫りあがってくるのに気づくと、今度は塩水を飲みこまないように、カラスの肩につかまって体を浮かし、顔の位置を高くした。底に足がつかなくなると、泳げないララは不安になった。

「ここ怖い。こんなことしてたら風邪ひいちゃうよ」

カラスはララには見えないなにかが見えているかのように、黒い水平線をじっと見つめている。

「〝セイレーン〟って知ってるか?」

「え? うん」

ララは突然の問いに少し戸惑いながら答えた。

セイレーンというのは、よく神話や昔話に出てくる海の魔物だ。上半身は女性、下半身は海鳥という姿をしていて、美しい歌声で船乗りたちを魅了し、船を座礁させてしまう。どんなに意志の強い人間でも、その歌声を聴いたらたちまち虜になって我を忘れてしまうという。

カラスはよく聞こえるように耳に手をそえた。

「聞こえる」

ララも耳を澄ませてみたが、

「なにも聞こえないよ」

カラスは取り憑かれたような表情で、

「こんな綺麗な歌声が聞こえないなんて……、もっと近づこう」

ララに肩をつかませたまま、ずんずん沖のほうへ進んでいってしまう。海面がとうとう肩の上まできた。

「聞こえるか!?」

ララは必死でカラスの両耳をふさいだ。

「ダメ! 聞いちゃダメ!」

目の前で高波が壁のように盛りあがって、二人を頭から飲みこんだ。
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