14章 別離 (1/3) ~ 花の都へ

取り残された不安で、鼓動が早くなる。

アシュラムのいた部屋には血痕が残っていた。それを見て、血を飲まされていたことを思い出し、まだ魔法が使えないかどうか試してみた。呪文を唱えると、普段通り炎を作ることができた。血の効き目は、せいぜい半日程度のようだ。

ララはお金と手紙を持って、今度は港まで走った。さっき海岸にいたのだから、先に港のほうを確認しておくんだった。もしかしたら、なにかの理由でまだ出航していないかもしれないのに……。

港には小型の漁船が何隻も停泊していたが、これから出航しようとしている船はなかった。

船から魚の入った木箱をおろしている漁師がいたので、マヌ行きの船が出たかどうか聞いてみた。

「そんな船、出てないよ」

若い漁師はそっけなく答え、中断された自分の作業に戻ろうとした。

「でも、今朝ここから出たはずなんです。友達がそれに乗ってマヌに行きました」

「ここには近海用の漁船しかない。外国に行くような船はないんだ」

漁師からあからさまに邪魔そうな顔をされてしまい、ララは遠慮がちになった。

「マヌ人の男の人たちと、顔に傷のあるチタニア人の男の人、見ませんでしたか?」

「見てないよ」

答えてはいるが、もうララのほうをむいていない。漁師はこちらの事情にはまったく無関心で、木箱を持ってさっさと行ってしまった。

ララは放心状態で、焼けつくような砂浜を一人でとぼとぼと歩いた。

歩くとスカートのポケットからカサカサ音がする。中を探ってみると、黄緑色の包み紙に包まれた飴がひとつかみ入っていた。カラスが入れていったのだ。ついでだから一粒舐めてみると、甘さが口いっぱいに広がった。

昨日キスした波打ち際で、地元の子供たちが水遊びしていた。ララと同じ歳か、それより小さい子たちだ。

ふと、ふぐ風船に馬をあずけてあることを思い出した。やっと次に行く先を見つけて、ララは店へと足を速めた。

店に入る前に厩へ直行する。

ところが、そこに二ヶ月間旅をともにした愛馬はいなかった。

ララは店の中に飛びこむと、開口一番に言った。

「私の馬は!?」

カウンターに頬杖をついていたマスターが驚いて顔をあげる。そばにはフェズが、昨日とまったく同じ格好で座っている。背中を丸め、座っている席も同じ。なんだかわからないが、飲んでる酒まで同じようだった。この人はいつもここに入り浸っているんだろうか? やはり店内にほかの客はいない。

「馬がいない」

ララが繰り返すと、マスターは変な顔をした。

「馬なら昨日の夜、アデリーナが来て連れてったぞ。聞いてなかったのか?」

「知らない」

「あいつが母親なんだよな?」

「うん」

カラスにもママにも置いてかれて、馬まで連れていかれた。

「母ちゃん見つかったのに浮かねえ顔だな。あれ? おい、どうしたんだよ!?」

ララの顔色が変わったのでフェズが驚いて声をかける。

ララは泣きだしてしまった。

昨日まではみんないたのに、今朝起きたら、知らない町でひとりぼっち。ママもカラスもアシュラムも、危険な場所に旅立って、生きてまた会えるかどうかわからない。

「だれも……いなくなっちゃった……」

すすりあげながら、心細さで押しつぶされそうなのどから声を絞り出す。その場でしゃがんで下をむき、石ころのように丸くなった。

『一緒にいる』って言ったのに。『ありがとう』って言ってたのに……!
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