14章 別離 (2/3) ~ 怪しい取引

男の子は金額を確認してから言った。

「だれかに聞かれても、このことは言わないでくれよ。犯罪すれすれなんだから、ばれたら君まで危うくなる」

「明々後日の日の出前にこの建物の前だよね?」

「そうそう」

これ以上この場にいても仕方ないような雰囲気だったので、ララは礼は言わずに歩きだした。これは親切じゃなくて商売なのだ。

背後で女の子のくすくす笑いが聞こえた。

「あの子のスカート見た? 長いやつハサミでちょん切ったんじゃない? それに磯臭いし……」

ララが振り返ると、隣にいた男の子が女の子の口をふさいだ。手で口もとを隠されても、目が笑っている。

カラスがこの場にいたら、間違いなく逆上していただろう。

でも、ララは言い返さなかった。

笑っている女の子は、ケシの花びらみたいにふわふわした淡い桃色のスカートを履き、かわいらしい造花のついたべっ甲の櫛や、ゆらゆら揺れるビーズの耳飾りでおめかししていて、顔もかわいかった。

ララは黙ってうつむき、うす汚れた自分のスカートに目を落とした。ハサミでちょん切ってそのままだから、太ももの前で裾がほつれて糸が垂れている。昨日の夜海水に浸かって、真水で洗わないまま乾かしてしまったから、布地に塩が浮いていた。磯臭いのは鼻が慣れてしまって、自分ではわからなかった。

言われるまでなんとも思わなかった。いつからこんなんで平気になっちゃったのかな……。

ずっとおしゃれしたかったけど、魔の森ではおばあちゃんから虚飾はよくないことだと言われてたから必要以上の物は持てなかったし、旅に出てからはお金がなくて買えなかった。

「明々後日の早朝にね」

四人は白々しい笑みを浮かべて手を振った。聞こえてないと思ってるみたいだ。

ララは手を振り返さずにその場から立ち去った。

そのあと念のため港を隅から隅まで歩いて、マヌ行きの船がないか自分の足で確かめた。客船がないのはもちろん、四人組が言っていた通り、さっきよりいい条件で乗せてくれる船もなかった。

通常運賃より安いとはいえ、払ったらすっからかんだ。マヌの港に着けたとしても、そのあと使えるお金がなかったら浮浪者に混じって物乞いでもするほかない。ママがトゥミスにいるはずだし、出航する前に探して資金を援助してもらおう、と思った。それにアシュラムは無実だと説得できたら、それだけで二人のことを助けられるかもしれない。ザレスバーグでは全然耳を貸してもらえなかったが、やってみる価値はある。

ママのことでわかっているのは、武器商人の家で踊り子として働いている、ということだけだ。なので武器屋を手当たり次第あたってみることにした。

トゥミスの街は、大きく二つの区域にわかれている。海岸付近の旧市街と、その先の新市街。旧市街は小国時代の町並みで、古い建物と細い路地が密集している。傾斜はほとんどないが、ザレスバーグの町並みにそっくりだ。そこから広がっていく新市街は、道が碁盤の目状に整備されていて、大理石に波や魚や海鳥などが彫刻された豪奢な建物が目立つ。大きな通りは馬車が四台すれ違ってもあまりあるくらい広く、きっちりと隙間なく平らな敷石で舗装され、歩道に街灯がならんでいる。街角のいたるところに、征服者や議員の名が刻まれた石像や銅像があり、前皇帝が建てた壮麗な凱旋門もあった。

港でかなり時間をくってしまったので、すぐに日が落ちてしまった。夕闇が空を紫色に染めはじめると、街灯にも薄紫色のぼんやりした灯りがともりはじめた。プリモス兵器の放つ光と、同じ光のようだった。
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