14章 別離 (3/3) ~ 処刑台に向かう船?

 

  * * *

 

その頃、カラスは薄暗い船室で、空の酒瓶と一緒に床に転がっていた。

船が大きく揺れるたびに、空き瓶がゴロゴロと転がる。ここは物置だ。頭上では、弱々しい火のついたカンテラと、ハンモックが揺れている。窓が一つもないので、狭苦しくて空気が悪く、板材の隙間を埋めるタールの匂いで息が詰まった。ドアには外側から鍵がかけられ、閉じこめられている。ハンモックに寝ないのは、一度寝てみたら揺れすぎて気持ち悪くなったからだ。そうでなくても、船酔いで気持ち悪い。部屋の隅には、ゲロと小便が入った蓋つきのバケツがある。

今朝、カラスはララを一人海辺の小屋に残して、ティミトラの家に戻った。

家に戻ったらティミトラはもういなくなっていて、トゥミスに発ったあとだった。ハザーンに聞くと、一人でララを探しに行ったあと、暗い顔で帰ってきて、急に出掛けるなんて言いだしたという。娘のことであんなに取り乱していたのに、肝心の娘を残して、どうしったっていうんだろう? イスタファも一足先にどこかへ行ってしまっていた。

ヴァータナまでついて行くと言ったら、ハザーンは自分で言いだしたくせに驚いたような顔をしていた。出ていったときは、戻ってくるとは思わなかったらしい。奇妙なことに奴らは依然として、これは逮捕ではないと言っている。この待遇はどう見ても、囚人と変わりないのだが。

イェルサーガが用意した船は、ザレスバーグ沖の小さな無人島に停泊していた。夜明け前に手漕ぎ舟でそこまで行って乗りこんだ。外観は大きな帆船で、旗を掲げて帝国の属州からの商船を装っている。

だが、この船はただの帆船ではない。自然の海風だけでなく、魔力を原動力にしているのだ。『儀式の間』と名づけられた船室に、船を動かすことが専門のマヌ人の魔法使いが二十人くらい集まり、複雑怪奇な魔法陣をかこんで手をつないで、延々と呪文を唱えつづけている。帆に風を受けなくても一定の速度で進みつづけるので、普通の大型船よりかなり速そうだった。

アシュラムは今、貨物庫にある猛獣用の檻の中に入れられている。素手で人間の首をへし折ってしまうような男なので、より警備が厳重なのだ。

今朝も夕方も、アシュラムの血を飲まされた。量は一口分だが、鉄臭いのが口にまとわりついて、気持ち悪い。

ハザーンは俺が戻ってきたことで少しばかり好感を持ったらしく、もてなしのつもりなのか、物置きにラム酒を一瓶置いていった。そんなことするくらいなら、外に出しやがれってんだ。暇に任せて飲んだら、かえって船酔いを悪化させてしまった。

吐くものは全部吐いて、頭がぐらぐらする。

眠ろうとしても、眠れない。昨日ララと小屋といたときも、一睡もできなかったのに。

ララは今頃どうしてるんだ? 置いてかれたと気づいて、泣いたのか? 怒ったのか? 途方に暮れたのか? ティミトラが帰ってきてなかったら、ララは一人で置いてきぼりだ。それでも家さえあればなんとかなるだろうが。あいつのことだから、俺と違って、ちゃんと食べて、ちゃんと寝てるんだろうな。俺が無事に帰れる保証はないから、待ってなくてもいいが、とにかく無事でいて欲しい。そうじゃなきゃ、残してきた意味がない。

目を閉じて、ララのことを思い浮かべる。夕焼け色をしたやわらかな巻き毛。透きとおったターコイズブルーの瞳。ほっぺたはマシュマロみたいに柔らかくて、甘い味がしそうな、桃色の飴みたいな唇。口紅なんかいらないのに塗りたがる。しょっちゅう口のまわりに食べかすをくっつけてるクセに……。

俺の天使。

今すぐ触れたい。

どうにもならず、煮詰まった頭を床に打ちつけると、鈍い音と一緒に、気の遠くなるような衝撃が、一瞬なにもかも掻き消してくれた。

外からだれか近づいてくる足音が聞こえる。
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