15章 ホタル草 パート2 (1/8) ~ お化け屋敷と小さな鳥

15 ホタル草 パート2

 

 

窓のない倉庫の奥、猛獣用の檻の中。

アシュラムは鞭打たれたところに包帯を巻かれ、右耳にも膏薬を貼っていた。それでもズキズキと痛む。体の血も足りないような気がした。

ハザーンの気遣いで痛み止めを渡されたが、飲んでいない。効果抜群なのはわかったていたが、使うと恍惚となる以外なにもできなくなってしまうからだ。

不安も恐怖も感じなくなるから、傷の痛みだけでなく、心の痛みも取ってくれるみたいだ。でも、薬で我を忘れるくらいなら、痛みに耐えながらでも正気を保っているほうを選ぶ。同じ理由で、差し入れの酒にも手をつけていない。

檻の外ではモナンが見張りについていた。椅子に座って何度もあくびをしている。手には、囚人がなにかしでかそうとしたとき檻の外からでも仕留められるように、吹き矢を持っていた。毒針には獲物を麻痺させる毒が仕込んである。

無駄に言葉を交わす必要はないが、ハザーンが会話を禁じたので終止無言だ。まだほんの子供であるモナンが、海千山千の元近衛隊長に惑わされる防ぐためかもしれない。

することがなくて時間がありあまっているので、アシュラムはいつもの習慣で体を鍛えていた。そうやってなにかに集中しているあいだは痛みや雑念を無視できる。

しばらく体を動かしたあと、疲れて檻の隅に積まれた干し草の上に横になった。暗がりでじっとしていると、自然といろいろなことが脳裏に浮かぶ。薬で恍惚状態になっているあいだに幻覚を見たからだろうか?

鮮やかに、思い出すのは、ヴァータナにある自分の家とマヤのこと……彼女が死んでまだ一年半しか経ってないのに、もうなにもかも遠い昔のことのように感じる。

 

  * * *

 

「本当に酷い荒れようね」

ある蒸し暑い晴天の昼下がり、マヤはアシュラムの庭を見て言った。

二人はあばら屋の庭に立っていた。手には草刈り鎌とナタを持っている。

崩れかかった門をくぐると、シダが生え放題で、まるでジャングルのようになっていた。背の高い雑草をナタでなぎ倒していって、やっと家本体を見ることができる。本来なら大きくて立派な木造の平屋のはずだが、ベンガラ色の瓦は所々はがれ落ち、そこにまで草が生えている。全体的に傾いているし、東棟は絞め殺しイチジクに巻きつかれて破壊されていた。

「だから言ったろ? ちょっとやそっと草を刈って済むようなもんじゃないって」

マヤは草刈り鎌をぶらさげて、ぽかんとしている。

「すごい迫力。絵にしてみようかな」

「いいんじゃない? このイチジク気に入ってる。実がなると食べられるから、近所の子供が盗みにくる。勝手に入って肝試しもしてるみたいだ。俺を見ると逃げる」

アシュラムは笑いながら言った。

この家はもう長いこと使っていなかった。以前住んでいたのは自分が母親の腹の中にいた頃だ。母が実家から持ち逃げした金で、貧乏な父と息子のために建ててくれた家だった。

でも父が戦死してしまったせいで、結局家族三人でここに暮らすことはなかった。リュージュの屋敷に住んでいたあいだ、一度だけ母とここを訪れたことがある。あまりよく覚えていないが、そのときはまだこんなに荒れてはいなかったと思う。
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