15章 ホタル草 パート2 (1/8) ~ お化け屋敷と小さな鳥

「そっちは床が腐ってるから──」

気をつけて、と注意しようとしたとき、バキッと大きな音を立てて、マヤの足もとの床が抜けた。彼女は木製のテラスに開いた穴から腰から上を出して呆然としている。アシュラムは揺り椅子に座ったまま大笑いした。

「もうっ、笑ってないで、手ぐらい貸してよっ」

風雨にさらされてもろくなっているテラスの上を慎重に歩き、マヤの手をとって引っぱりあげる。しっかりしていそうな足場が狭かったので、体をくっつけるようにして立ちあがらなければならなず、鼻先にあるマヤのまとめ髪から、甘い香油が香った。アシュラムは手を放して家のほうを振り返った。軒下にお目当ての鳥の巣が張りついているのが見える。青い羽毛とオレンジ色の飾り羽を持った親鳥が、巣の中のヒナに餌を運んでいるところだった。前来たとき卵だったのがかえったのだ。

それを見たら、自然と口もとがほころんだ。

隣で同じ鳥を見あげていたマヤは、少し言いにくそうに言った。

「ねえ……、もしこの家を残しておくつもりなら、やっぱり今のうちに手を加えておいたほうがいいと思うの。今すぐ住まなくても、このままほっといたら、どんどん壊れて直せなくなっちゃうし。鳥の巣を壊さないでもなんとかなる方法もあると思う」

親が遺してくれた家なのに、荒れ果てたままほったらかしにしてた。使わないならこのままでもいいかと思っていたが、なにもしなければ確かに崩壊していく一方だ。ヴァータナに来て間もない頃は、いろいろあって家の修理どころではなかった。でも最近は宮殿勤めにも慣れて以前より余裕ができてきたし、使わないから金も貯まってる。これはいい機会なのかもしれない。

アシュラムは考えながら、テラスに空いた穴や家全体をながめ、思いきって決断した。

「そうだな。家の修理を大工に頼むよ。なるべく変えないでもらって、内装とか細かいところは自分でやる」

マヤはそれを聞いて安心したようだった。

「じゃあ、そうとなったらまずは草むしりね」

「ええ!? 本当にやるの?」

「そのために来たんじゃない。千里の道も一歩からって言うでしょ?」

マヤは草刈り鎌を掲げ、アシュラムの背中をバシッと叩いた。

 

 

それから、休みのたびに二人で家にやってきては、庭を整備したりどこをどう直したらいいのか話しあったりした。アシュラムの家のことなので、マヤが手伝う必要はないはずなのだが、彼女はこういうことが好きだから手伝わせてほしいと言った。

屋根瓦の取り替えや、テラスや門の作り直し、家の傾きの修正のための柱の補強などを大工に依頼し、軒下の鳥の巣には手をつけないようにも頼んでおいた。

ところがある日、一人で作業の進み具合を見に行って驚いた。例の鳥の巣がなくなっていたのだ。

テラスを組み立てていた大工に声をかけた。

「あそこにあった鳥の巣はどうした?」

「あれなら取っときましたよ」

大工は悪びれもせずに答えた。

「取った? 巣とヒナはどこに?」

「ゴミと一緒に捨てました」
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