15章 ホタル草 パート2 (2/8) ~ 汚職の証拠

 

 

宮殿の中にある近衛隊長の執務室に、急な客がやってきた。ヴァータナの治安を守っている、ヴァータナ警務局の局長だ。

アシュラムはちょうど、南マヌでつづいている戦闘の戦果と被害についての報告書に目を通している最中だった。あいかわらず小規模な武力衝突が頻発し、やったりやられたりしている。敵のほうも痛手を被っているのは同じなので、あまり派手には仕掛けてこないが、裏を返せば大きな衝突がないためいつまでたっても決着がつかない。

「用件を言ってたか?」報告書を脇によせて、侍女にたずねた。

「今すぐお伝えしたいことがあるとだけ」

警務局は司法庁と軍から二重支配されているが、今の局長のカトゥーは司法庁との折りあいが悪かった。司法庁を通じてなにかの許可を得ようとすると、書類に何個も印を押してもらわなければならず、どうしても機敏に動けなくなってしまう。軍でも原則的には何人かの印をもらうことにはなっているが、司法庁ほど審査に時間はかけない。それにアシュラムは、急を要するなら、面倒な手続きを省いてしまうことが多かった。その場で判断して、必要なら、直接国王から承諾を得てしまうのだ。王の判断ならだれも文句は言えないし、まっとうな理由なら、王から拒否されることはまずなかった。そのため、カトゥー局長はすぐに決定を下してくれるアシュラムのもとへ頻繁に足を運んだ。

カトゥーは執務室に入ってくると、今日来た旨を伝えた。

彼らはヴァータナ市街でテロリストの一味を捕らえた。ブルーライトの売人で、下っ端の資金調達係だが、

「奴はヒカリ草をどこで栽培しているのか白状しました」

カトゥーは使いこまれた机の上に、マヌ北部の地図を広げた。郷ごとに点線で区切られていて、後から赤で印が書きこまれていた。

「この印のあたりです」

驚いたことに、印があったのは、ヴァータナの隣のナバフ郷だ。戦場になってはいないし、今までテロがらみの問題が起きたこともない。

「ナバフの地方長官がヒカリ草畑があるのを黙認して、賄賂をもらっているとも証言しています。デリンダの警務局も一枚噛んでる可能性があるので、まだこのことは知らせていません」

デリンダはナバフ郷で一番大きな街だ。郷政府があり、地方長官もそこにいる。別の郷にいる犯罪者は、その郷の警務局が逮捕するのが普通だが、デリンダ警務局の状況はわからなかった。局員の中に、賄賂を受け取ってテロリストと密通している者がいるということも、十分考えられる。長官自身も警務局に顔が利く。

「よくやった。ナバフ郷にはイェルサーガを送って長官を逮捕させるよう、陛下に進言する」

イェルサーガなら郷の区切りに関係なく動ける。しかもだれにも気づかれず秘密裏に動くのは得意分野だ。が、カトゥーは真顔で申し出た。

「私たちにやらせてください。私たちのほうが状況を把握しています」

ヴァータナ警務局の担当する事件は、麻薬がらみのものが多い。街では麻薬の売買を仕切る組織が暗躍していて、一度蹴散らしても、すぐまたボウフラのように湧いてくる。警務局はそうした抗争で、毎年殉職者を出していた。

彼なりに、思い入れがあるのだろう。真相を突き止められたのも、その執念深さがあったからなのかもしれない。

だが、アシュラムはカトゥーに否定的な眼差しをむけた。

「制圧力だけ考えれば、イェルサーガのほうが勝っている。それでも、おまえたちに任せる利点があるのか?」

「あります」

「確実に捕えられるな?」

「必ず」

熱心な男だ。

「なら、おまえたちに任せよう。ナバフで自由に動きまわれるよう、勅書を出してもらえるよう頼んでみる。逮捕する直前までだれにも気づかれるな。捕まえたら刑に処す前に、宮殿に連れてこい」

カトゥーは望み通りの返事が得られて、歯切れのいい返事をした。

アシュラムは机の上に置かれた地図に目を落とした。地方長官の汚職は失望させられる出来事だが、アシュラムの気分は高揚していた。

テロリストと役人がどんな仕組みで繋がっているのか、くわしく聞き出してやる。
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