15章 ホタル草 パート2 (4/8) ~ 秘密

 

 

そんな生活が数週間つづいたある日、アシュラムは仕事でいつにも増して帰りが遅くなった。

勤務時間が終わりに近づいた頃、カトゥーから報告があり、逮捕されたナバフの長官が護送中、何者かに暗殺されたとわかったのだ。長官には一度逃げられ、やっと捕まえたところだった。長官は魔法使いに脳天を吹き飛ばされ、警務局員の一人が殉職した。

やったのはテロリストの一味か、でなければ長官と手を組んでいたほかの汚職官吏かもしれない。いずれにせよ、口封じのためにやったのだ。長官には大したことを聞き出せないまま死なれてしまった。アシュラムはもう少しでカトゥーのことを怒鳴りつけてしまうところだった。これではいつまで経ってもイタチごっこだ。

疲れ果てて家に着くと、居間に明かりがついていた。もうとっくに真夜中を過ぎているというのに、マヤはそこにいた。

「お帰り。遅かったね」彼女は筆を置いて気遣わしげに微笑んだ。

「まだいたのか」

「なんだか私がいると邪魔みたいな言い方」

長官の件でのいらだちが、そのまま口調ににじみ出てしまったようだ。

「邪魔なことはないよ。でも、もう帰ったほうがいい」

「帰るって今から? こんな時間に歩いてたら危ないじゃない。今日はここに泊まってって徹夜で絵を描いてく。そのほうが安全だし、いいでしょ?」

危ないとわかってるなら、さっさと帰ってろよ──そう言いそうになって、思いとどまった。だめだ。冷静になれ。いらだつな。

「それなら俺が宮殿まで送ってくよ」

「そんなことしたら、侍女に見られて、なにかと思われちゃう。帰らなければアトリエに泊まったと思うし、そのほうがいい。今すごく調子がいいの。このまま一気に絵を描き進めたい。お願い。今夜一晩だけここに泊めて」

マヤは目の前で両手をあわせた。

「だめだよ」

「絵を描くだけじゃない。せっかくつかみかけた直感を今すぐ形にしなきゃ、逃しちゃう。一芸術家としての頼みよ」

目がチカチカしてきて、アシュラムは両手で顔をこすった。

「アシュラムも疲れてるみたいだし、そのほうが楽でしょ?」

そうだ、俺はくたくただ。疲れきってるんだ……。

「わかった。今夜一晩だけだよ」

今はもう、これ以上考えたくない。

マヤは『やった!』と、弾むように拳を振った。

「俺は寝る。おやすみ」

アシュラムは寝室でベッドに倒れると、なにも掛けないうちに泥のように眠ってしまった。

 

しばらくして、なにかを叩きつけたような音で目が覚めた。まだ夜中で、あまり時間は経っていないような気がしたが、すごく深く眠れたようだ。さっきよりも体が軽かった。

「マヤ?」

もしかしたら侵入者ではないかと思い、刀を携えて居間をのぞいた。
次のページ