15章 ホタル草 パート2 (5/8) ~ 未来のかかった縁談

 

 

数日経っても、長官と警務局員を殺した暗殺者は見つからなかった。彼と関わっていた汚職官吏二名が処刑され、ヒカリ草の畑も焼き払われた。だが、肝心のブルーライトの密売経路はわからず、栽培していたテロリストは雲隠れしてしまった。こう逃げ足が速いと、どこかに密告者がいるのではないかという疑いが、ますます濃くなってくる。

今日もヴァータナではブルーライトが滞りなく出回っているはずだ、とカトゥーは言う。王国内には、ナバフで焼き払った以外にも、無数の花畑が存在しているのだ。

これまで、ブルーライトは南マヌの無政府地帯で作られているというのが通説だった。今回の事件は、それを覆す発見だ。おそらくナバフは例外ではない。統制が行き届いているように見えるほかの郷でも、同じような汚職官吏がいて、同じような花畑があるはすだ。

 

 

そんな折、絶妙なタイミングでマヤに縁談が舞いこんできた。相手はネブラルタスというトゥミス帝国の元老院議員。マヌとの国境付近に広大なサトウキビのプランテーションを持っている貴族だ。歳は四十で、子供はいない。

「トゥミス人の貴族がマヌ人を正式な妻にするんですか?」

アシュラムは驚いて、相談してきたリュージュに聞き返した。

「私も最初聞いたときは驚いた。でもネブラルタスのことを調べさせてみて納得したよ。彼は十年以上前、マヌ王国のセシリオンに留学したことがある。大して成績はよくなかったようだが、帰国後は自宅にマヌ人の娼婦を囲ってハーレムを作っているらしい。黒い肌にそそられる性癖なんだろう」

リュージュはえげつない言い方をした。相手の品性のなさが気に入らないようだ。胸もとに孔雀の羽飾りのついた薄紫の長衣を着て、自室のテーブルにひじをついて座っている。

マヤとはすぐに打ち解けられたのと違い、リュージュとは再会して以来、少年時代にはなかった距離感を感じていた。王と家臣という身分の差が、子供の頃よりはっきりしたせいなのだろう。そばにいると、そのことをなおさら強く再認識させられるせいなのか、月日が経つごとに距離が縮まるどころか広がっているような気さえした。

部屋には、アシュラムとリュージュ二人きりしかいなかった。マヤはまだこの縁談のことを知らない。

ネブラルタスからの使者は今街なかの宿に泊まっていて、三日後にもう一度返事を聞きにくる。

「姉貴はしばらく宮殿に帰ってない。アトリエを探させたが、そちらにも帰っていないようだし、また失踪したのかもしれない」

「いつからいないんです?」

「八日前だ」

マヤを家から追い出した日だ。しばらく見ないと思ったら、また放浪癖が出たのだ。

「どうして言ってくれなかったんですか?」

「おまえは話す暇もないくらい動きまわっていたじゃないか。それに姉貴が急にいなくなるのはいつものことだ。どこに行ったかわからないし、帰ってくるかどうかもわからんが、なにか返事をせねばなるまい」

「陛下はどうお返事なさるおつもりですか?」

「断るには惜しいが、本人が行方不明では話にならん。姉貴がいたとしても、受けるとは思えん」

マヤはこれまで十回以上あった見合い話を全部断ってきた。相手はいずれも高官の息子で、それほど政治的な意味合いのある縁談ではなかったので、まわりも押しつけはしなかった。

だが、トゥミスの元老院議員からの求婚なんて、逃したらまたとないことだ。トゥミス人はマヌ人に対する偏見が強いし、貴族が正妻に迎え入れたなんて話は聞いたことがない。もし、マヤとネブラルタスの縁談が成立すれば、元老院議員とマヌ王宮のあいだに心強い連絡役ができる。二人の子供は当然、マヌ人とトゥミス人のハーフだ。もし、それが跡取りになって、元老院議員になれば、マヌとトゥミスのあいだに友好関係を結ぶ大きな足掛かりになるかもしれない。
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