15章 ホタル草 パート2 (6/8) ~ どうしても、やり遂げたいこと

 

 

ヴァータナ宮殿では、食事をしながら会議をする。毎晩王と高官たちは、大食堂で長テーブルをかこんで、一度に食べきれないほど大皿に盛られた料理を、ちょこちょこつまみながら討論する。宮廷料理人が複雑怪奇なほどに腕によりをかけた料理がずらりと並ぶ──紅ガエルのフライを口いっぱいに捕食したワニの丸焼き、食用花と飾り切りの野菜で泉の景色を模した巨大魚のスープに、一つ一つ色の違う貝の器を使ったマンゴーとココナッツ餅の重ね盛り……。口に入ったまま話すのは無作法なので、食べてる途中で発言したくなったときは、急いで飲みこむか、給仕係の持っている杯に吐き出す。食事はまずくなるし、討論にも集中できなくなりそうだが、この非効率的な会議が、伝統あるヴァータナ式である。

アシュラムは夕食の席で、ナバフ郷の事件をふまえ、今後取るべき対応策を提案した。

今の体制では、テロリストと癒着している官吏がいても、見過ごしてしまう。これからは各郷の行政機関に対する監査を今まで以上に厳しくし、一度ジャングルの奥地まで、ヒカリ草の花畑がないか徹底的に調査すべきだ。

「その案については、慎重に検討していこう」

宰相のシャンタンは、ナイフで肉を切りわけながら、やんわりと却下した。今まで『検討する』と言われて実行されたことなどないのだ。

長テーブルの一番上座にはリュージュが座り、その真正面の一番遠い席にシャンタンが座っている。アシュラムの席は王の右隣だ。ほかには財務長官、司法長官、宮内長官などが食卓をかこんでいた。

「証拠を隠滅される前に、監査役を送るべきです」

アシュラムが食いさがると、一同はナイフやフォークを持つ手を止めた。

アシュラムはリュージュのほうを見た。実を言うと、この提案についてはもう二人で話しあっていて、承諾を得ている。この場で、リュージュが王として同意する意思を示せば、すぐにでも動きだせる。

だが命令が下る前に、商取引取締役が口をはさんだ。

「念のためやっておくのはいいことかもしれん。しかし、ブルーライトが作られているのは、大部分が南マヌだ。ナバフは例外だよ。それともほかの郷でも栽培が行われているという証拠がおありか?」

「南部では昼夜問わず戦闘がつづいていて、双方ともいつ敵の襲撃を受けるかわからない状況です。とても一カ所に定住して農作物を育てられるとは思えません。実際戦地にいても、花壇程度の花畑しか見かけませんでした。それに比べてナバフの花畑は広くて管理が行き届いていました。ナバフだけが例外という考えに根拠はありません」

「だれに監査をやらせる? ジャングルを調査する人手は?」と司法長官。

「新しく監査部を作ります。ジャングルはローラー作戦で、地元の兵士に調べさせます」

すると、財務長官は口の中のものを吐き出して、ツバを飛ばした。

「監査部だって? 今ある部署に振りわけるだけで、予算を使い切っているというのに、そのうえまた新しい部署を増やす金がどこにある!? ローラー作戦にだって費用がかかるし、そのあいだ都市の防衛が手薄になるではないか。それだけの価値があるとは思えん! そんなことは警務局にやらせておけば十分だ」

「警務局は郷政府の内部にまで立ち入れませんし、現存の組織は情報がダダ漏れです。監査は第三者がやらなければ意味がありません。ローラー作戦で防衛が手薄になるのは数日のあいだだけです。全部の郷で一斉にやるわけではありませんし、手薄になっているところには中央から先鋭部隊を送って補います。各方面への監査を徹底すれば、その分の経費は捻出できます。今は用途もはっきりしないまま国庫から消えていく金が多すぎるのです。それを明らかにすれば、出費は増えるどころか減ることでしょう」

アシュラムは自信を持ってそう断言した。各庁の帳簿に不明瞭な点があることは下調べ済みだ。

高官たちはそれぞれ不快そうな顔をした。

「地方への監査だけでなく、我々に財布の中身まで見せろと言うのかね?」宮内長官が言った。

「そうです」

「経費に目を通すのは我々の仕事だ」と、財務長官。

「あなた方の発表する収支報告は大ざっぱすぎてわかりません」

「あなたは経理の人間ではない。わかる者が見ればわかるのです」

「作った本人しかわからない収支報告なんておかしいじゃないですか!」

「ご不満なら、後日別の報告書を送りましょう」

「その報告書があっているかどうか調べさせます」

高官たちの敵意の視線がアシュラム一身に注がれた。
次のページ