15章 ホタル草 パート2 (7/8) ~ 回顧展

 

 

マヤの葬儀は、宮殿の敷地内でしめやかに行われた。

本来、王の親族の葬儀は国をあげてもっと盛大にやるものだ。宮殿の前の広場で公開するのはもちろん、遺体を派手な御輿にのせて練り歩いたりする。マヌ教の葬儀は、別れを惜しむだけでなく、来世にむけて旅立つ祝い事でもあるからだ。だが今回は死に方に問題があるということで、それらの手順は省かれることになった。宮殿に出入りする者だけでもさすがに参列者は多いが、町中でのお祭り騒ぎは控えた地味な葬式だ。

マヤの死についてくわしい話を聞き、衝撃の事実を知った。

彼女は妊娠していたのである。

医者の話によると、妊娠四ヶ月目で、堕ろせる時期は過ぎていたという。お腹があまり大きくならなかったので、まわりはだれも気づかなかった。遺書が残っていないので、だれの子だかわからない。婚約者のネブラルタスとはまだ会ったことがないので、彼の子供ではないことは確かだ。

マヤはヴァータナにはそういうことを相談できる友人はいなかったようだ。宮中の人間も、だれ一人として、相手の男に心当たりのある者はいない。

アシュラム一人を除いては。

マヤを追い出した日から、ちょうどそのくらいの月日がたっている。

「相手の男は名乗り出もしない。恋人が身ごもって自殺したというのに」

席について歯ぎしりしているリュージュの横で、アシュラムは内心の動揺を顔に出すまいとしていた。

俺の子供と決まったわけじゃない。そんなことわからないじゃないか。四ヶ月前にたった一晩過ごしただけなのに。子供ができたなんて聞いてない。ほかの男の子供かもしれない。マヤとはしばらく会ってなかったんだ。それに彼女が気紛れだってことも知ってるだろ?

「姉貴も姉貴だ。結婚が決まっているのにほかの男と寝るなんて。しかも逃げるような男と。国中の笑い者さ」

リュージュは毒づいた。マヤがヴァータナにやってきたときから、二人の仲はぎくしゃくしていたが、最近はますます険悪になっていたようだった。だから彼は泣いていない。三人で田舎の屋敷にいた頃は、仲のいい姉弟だったのに。マヤの両親もその場にいたが、ハンカチで目もとを押さえているのは涙を拭くためではなく、泣いていないのを隠すためだ。

かわりに、マヤとは親しくなかった人間が涙を流している。泣き屋がけたたましく号泣し、わかりもしない奴が「彼女はいい人だった」と知ったような口を叩く。どうせ葬式が終わったあとはそれを口実に飲み会でもやるんだろう。

お腹の中の子供が俺の子供だったとしたら、どうして言わなかったんだろう? 堕ろしてくれと言われるのが嫌だったから? それとも堕ろせなくなるまで本人も気づかなかったから? こっそり産もうとして、やっぱりできなくなった? 最初から死ぬつもりだから放っておいた? 医者のところに行ったら妊娠したことが周囲に知れ渡ってしまうから、どうすることもできなかった?

俺のために隠した?

『せっかく手に入れた近衛隊長の座を失いたくないんでしょう?』──そう、マヤが言っていたのを思い出す。

そうだとも。失いたくなかった。

まだまだこの宮殿でやるべきことを残している。戦場に仲間たちを残してヴァータナに来たのは、問題のある味方の中枢を変えるためだ。内戦終結のために、俺にしかできないことがある──そう信じて、戦地の上官も説得した。今あきらめたら、俺は脱走兵と同じだ。

最後にマヤと会ったのは、俺が真夜中にアトリエに押しかけていった日だ。彼女は俺を見て、泣きそうな顔をしたあと、微笑んだ。あのときもう妊娠したことを知っていたんだろうか。俺が呼び止めたとき、マヤはどんな思いで俺の言葉を待っていたんだろう……。

血の気の引いた顔でうつむいているアシュラムを見て、リュージュが慰めるように肩を抱いて言った。

「相手の男を見つけたら、私が殺してやる」

たぶん彼は本気だ。
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