15章 ホタル草 パート2 (7/8) ~ 回顧展

激しいスコールの中、雨がっぱのフードを目深にかぶり、斧を持って墓地へとむかった。

雨がずっと降りつづいているせいで、少し低地になると路地が川のように水浸しになっていた。雨期のヴァータナではよくあることだ。こんな夜にわざわざ出歩く馬鹿なんてほかにいない。こんな夜でも出歩くしかない浮浪者は高台に逃げている。弱っている者は死体になって、ゴミと一緒に流れていく。これもヴァータナではよくあることだ。

雨がっぱを着ていても足もとからずぶ濡れになってしまうのだが、一応フードで顔を隠すのが目的だった。

墓地に着くと、マヤのために建てられた小さな霊廟を見つけ、扉にかかっていた鎖を断ち切って中に入った。

霊廟には窓がないのでまっ暗だ。入り口に備えつけてあるランプに火を点すと、石壁にかこまれた部屋の中央に、来世へと旅立つ舟形をした石棺があるのが見えた。蓋をずらすと、朽ちた花々に埋もれて、死に装束を着たマヤが横たわっていた。

暑さのせいで早くも腐敗しきっている。もちろん目もだ。

マヤの目だけ薬液かなにかにでも漬けて保存しておこうかと思ったが、これでは無理だ。それに実際に亡骸を前にすると、いくら死んでいるとはいえ、大切なマヤの体を傷つける気にはなれない。

石棺の中に入って、マヤの体を抱きしめた。やっと思う存分触れることができる。身ごもったお腹もさすってみる。この中に俺の子供がいるのだ。死んでしまったけど。

石棺の蓋をずらした瞬間から、遺体は猛烈な腐敗臭を発していたが、戦場で死臭を嗅ぎ慣れている。それにマヤの匂いだと思えば、そんなに悪いものではない。ウジが湧いてたって平気だ。

「マヤ……マヤ……」

豊かな巻き毛に指をさし入れ、なでようとすると、髪が指に引っかかって、頭皮ごとずるりと抜け落ちてしまった。

アシュラムは急におかしくなって、石棺の中で大爆笑した。なんだかわからないが、笑いが止まらない。
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