15章 ホタル草 パート2 (8/8) ~ 死人の足音

 

 

毎日がせわしなく過ぎてゆく。生活を楽しむ余裕などないに等しかったが、仕事のほうはすこぶる順調だ。ナバフ郷以外の郷でまた一つ花畑が見つかり、焼き払った。現地から報告を受けて、アシュラムはヴァータナ勤務の部員たちとともに祝杯をあげた。監査部はますます活気づき、部員の数は百人から三百人に増えていた。近衛隊のほうも問題なく、今まで通りよく働いている。

そんなある日、アシュラムは気分転換に一人で昼食をとりに街へ出た。いつもなら宮殿の食堂で仲間と話しながら済ませてしまうのだが、その日はひさびさに天気のいい日だったので、出歩きたくなったのだ。雨期は終わりに近づいていた。

屋台でプンタとココナッツジュースを買い、近くのベンチに腰をおろした。そこは職人会館の庭なのだが、つねに開け放たれているので、人々の憩いの場所になっている。会館の高い屋根の瓦を、熱い日差しが焼いている。

少し離れたところでは、数人の子供たちが追いかけっこをしてはしゃいでいた。水たまりの残る敷石の上を夢中で走りまわり、そのうちソテツの植えこみの中まで踏み込んでちょろちょろしはじめた。でも近くにいる大人たちは世間話に夢中で、子供たちが自由に遊びまわるのをしかったりはしなかった。うららかな雨あがりの木漏れ日の下、子供の楽しげに遊ぶ声が聞こえてくる。

実に平和で心のなごむ光景だ。

のんびりと流れる時の中で、心地よい眠気を感じてあくびが出てしまった。

そのとき、急に胸に激痛が走った。閉じていた目を開けると、胸に矢が刺さっている! みるみるうちに血が広がり、近くにいた人々から悲鳴があがった。

だれだ!? どこから射った!?

あたりを見まわして矢の飛んできた方向を探したが、それらしき人影はない。それから、自分の意に反して倒れてしまった。ベンチのまわりに兵士たちが集まってくる。死んだ兵士たちだ。

これは夢? 現実?

俺は死ぬのか?

これまで死と隣りあわせの戦場をいくつも切り抜けてきたというのに、こんな平和な憩いの庭で、何者かもわからない刺客に殺されるなんて──嫌だ。

兵士の一人が血まみれの手を差しのべてきた。迎えにきたのだ。苦痛で意識が朦朧としてくる。

待ってくれ……。まだだ。まだ、連れて行かないでくれ。せめて、もう少し……
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