15章 ホタル草 パート2 (8/8) ~ 死人の足音

 

 

まぶしい光を感じた。

気がつくと仰向けでベッドの上にいて、知らない男にまぶたをこじ開けられていた。男は片手で目を開け、もう片方の手をベッドについて屈んでいる。アシュラムはまぶたに触れていた男の手首をつかみ、ねじりながら相手の体を反転させると、背後から首に腕を巻きつけた。男はのけぞった状態で首を絞めつけられ、無理な方向にひねられた片手を背中に押しつけられたまま、もう片方の手でアシュラムの腕を引き剥がそうともがいた。

「やめてください! そいつは医者です」

声のするほうをむくと、ナーディル副隊長がいた。アシュラムは男から手を放した。

「ここは病院です」

医者は後ろにさがってすっかり怯えている。

「すまない」

危うく締め殺すところだった。ここが病院だと知ると、さっきまでの緊張が解けて、急に胸の痛みが気になりだした。くらっときて起きているのが辛くなり、またベッドに仰向けになる。熱があるのか寒気がして、だるいし、頭もすっきりしない。

それから、信じられないことに、リュージュがベッド脇に駆けつけてきた。王が負傷した一兵卒のために、わざわざ宮殿から街の病院に出向くなんて……。

「リュージュ……」

彼の名前が口をついて出た。『陛下』でも『リュージュ様』でもなく、呼び捨てにしたのなんて何年ぶりだろう。王位に就いたら、父親以外は名前で呼びかけてはいけないことになっているのに、リュージュはうっかりミスを咎めなかった。

「アシュラム、しっかりしろ」

顔に脂汗をにじませ、はっきり焦点の定まらないような目つきのアシュラムを見て、リュージュは心配そうに声をかけた。そして医者にたずねた。

「どうなんだ?」

「矢は運よく器官をそれていたのですが、感染症を起こしているみたいで、このままだと、どんどん悪化していきます。薬を投与して様子を見ます」

「それで治るのか?」

「危ないです」

「死なせたら承知しないぞ」

恐れ多くも国王に脅され、医者はまた気の毒なほど怯えていた。

「わざわざご足労わずらわせて申し訳ございません」

アシュラムは熱に浮かされて出たうわ言のように言った。

「まだそんなこと言っているのか。みんなおまえのことを心配して来ているのだよ」

ほかの近衛隊員や、監査部のリーダーや、カトゥー局長、いつも世話になっている侍女や、知りあいの官吏、王につきそってやってきた高官などが、ぞろぞろ部屋に入ってきた。

「陛下は……私のことを憎まれていたわけではなかったのですね」

「当たり前だ。兄弟なんだから」

リュージュの言葉を聞いて、アシュラムの顔から安堵の笑みがこぼれた。嬉しかった。

「おまえは他人の忠告を聞かない奴だ。姉貴と同じで、まわりが説得しても、絶対に自分の考えを曲げない。死んでもだ。だが私は、髪が白くなって腰が曲がるまで、おまえとともにマヌ王国という畑を耕していきたい」

そんな理想の未来を想像したら、なんだか涙が出てきてしまって、リュージュの顔がかすんで見えた。

彼は弱っているのをこれ以上見ていられないという様子で、落ち着きなく医者のほうを振り返り「薬はまだか!」と急きたてた。あまり気苦労ばかりかけたくないのでアシュラムが体を起こそうとすると、「寝てろ」と言って額を押し返されてしまった。

枕に頭を押しつけられながら、ふと、病室の隅からシャンタンが見ているのが目に入った。アシュラムはぞっとした。シャンタンの視線から、殺意を感じとったからだ。
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