最終章 ユニコーン (2/3) ~ 黒い城の王

 

  * * *

 

アシュラムはうずくまって頭を抱えていた。

目を閉じて、呼吸を整え、乱れた心を鎮めようとする。

しばらくして顔をあげ、カラスの姿がなくなっていることに気づいた。

血痕が床の淵までつづいていた。リュンケウスのほうを見ると、自分の靴とズボンに飛び散ってしまった返り血を気にしている。

「落としたのか?」

責める口調だったので、リュンケウスは振り返って、

「もう勝負はついてました」と言った。

「とどめを刺してやろうと思ったのに」

あのままじゃ、苦しんで死ぬ。

「放っておいても、すぐ死にます。お見事でした」

そう言うと、彼は磨きあげられた革靴についた血を、神経質に拭いはじめた。

アシュラムは立ちあがって刀の血を拭い、鞘に収めた。それからカラスが蹴った刀を拾いにいった。

鞘から少し刀身を抜き、白銀の輝きを確かめる。鏡のような刃に、疲れきった緑色の目が映りこむ。

湖畔で刀の使い方を教えてやったときのことを思い出した。さんざん嫌味ばかり言っていたくせに、あのときは俺に憧れてる少年みたいな目をしてたっけ。刀のほうも、子供の遊びみたいだったな……。

彼には気の毒なことした。

もの思いに耽っていると、リュンケウスが声をかける。

「後悔なさってるんですか?」

「いいや」

アシュラムは刀身を鞘に収め、また帯にさし直した。

そのときまた一つ大きな建物が倒壊したので、リュンケウスは映しだされた影のほうにむき直った。

「あれは──ダリウスの劇場だ! ハハハッ、これでもう座長はつづけられないな。いい気味だ」

もう劇場から逃げる人影はなくなっていたが、正面の石段には、舞台衣装を着たままの死体が転がっていた。

「せっかくなんだから、ほかの街の様子も映しましょうよ」

興奮した口調で彼は言う。その表情は生き生きとしていて、劇場で喜劇を楽しんでいる観客となんら変わらない。

アシュラムは無表情のまま、また玉座の肘かけに座り、総仕上げの呪文を唱えた。自分の口から出る呪文は単なる言葉でしかないが、同じ言葉を神王が口にした途端、魔法になる。クレハが呪文を復唱すると、街に降り注ぐ砲撃が止まった。

まだ混乱した人々の声は聞こえてくるが、爆撃音が止んで急に静かになった。

リュンケウスが異変に気づいて振り返った。

「どうして攻撃を止めたんです?」

「もうこれくらいにしとこう」

リュンケウスはもの足りない様子だが、

「それじゃあ、次の計画に移りますか」と言った。

「いや、いいんだ」

アシュラムの態度の変化に気づき、リュンケウスは不審そうに問いかけた。

「『いい』とはどういうことです?」

「世界中にあるプリモス兵器を一つ残らず無効にした。もうどの銃の引き金を引いても光線は出ない。爆弾も爆発しない。全部ゴミになった」

武器商人は一瞬言葉を詰まらせ、相手の言葉の真意を計りかねたようだった。さっきまでの興奮がみるみる引いていく。

「そんなことができるなんて聞いてない」

「言ってないからな」

「話が違う。理想の国を作って王になるんじゃなかったんですか? もうすぐ夢が叶うんですよ。それを仲間を殺したぐらいで、動揺してあきらめるんですか?」

プリモスの翼が空から堕ち、地面に激突する音がした。アシュラムは笑った。
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