10章 刃 (2/2) ~ 歪んだ鏡

「マヌ王国を出るまでは一緒だった」

「じゃあ、今も近くにいるのか!?」

「いねえ。大地の裂け目まで迎えにきてたほかの手下と一緒に、もうトゥミスに発ったからな」

「残ったのはおまえ一人か?」

「ああ」

「こんな重要な役目を、たった一人に任せたのか?」

「手下はたくさんいた。でも全部そこのチタニーに殺られた。俺は手下を殺されたことを、迎えの奴らに報告しなかった。ボスは今も俺が手下たちと一緒にあんたらを追ってると思ってるだろう」

手ぶらで帰ってボスから罰を受けることを恐れているらしい。アシュラムは手下を倒したカラスのことをちらりと見やって、また男のほうに視線を戻した。

「八方塞がりみたいだな」

図星だったのか、男は黙った。

カラスは古代マヌ語の記された紙切れのことをたずねた。

「この『地獄』って書いてあるやつなんだ?」

「仲間うちの合い言葉だ。おまえらには関係ねえよ」

とりあえず男の覚え書きはポケットにしまった。

「聞きたいことは聞けたか?」

もう用済みか? と言わんばかりに、カラスはアシュラムに聞いた。

「ああ」

同意されて、男の顔からあせりがにじみ出る。

「さっきも言ったが、俺は雇われてるだけだ。しくじったから、名誉挽回しようとした。でももうあきらめる。俺はダリウスのところには戻れねえ。見逃してくれたら、もうあんたらに手出しはしない」

「見逃せねえな」

カラスは嘆願する男のこめかみに銃口をグリグリ押しつけて、男の言葉をそっくり真似た。

「言っておくが、この引き金は軽いぜ」

最初から生かしておく気なんてさらさらなかった。子供の頭に銃口を押しつけて、『引き金が軽い』なんてほざく野郎の口約束なんて、信用できない。掃き溜めみたいな場所でこういうクズは見慣れてるから、わかるのだ。放っておけば、やり返されて後悔するのがオチだ。助ける義理はないし、悪党の手下なんて、クソにたかるハエも同然だ。何人殺したって良心の呵責は感じない。

そのまま撃ち殺すつもりだったが、思いついて銃を刀に持ちかえた。アシュラムは斬りやすいように男の上半身を起こさせ、カラスは覚えたばかりの構えをとった。

刃を映す男の瞳が、体よりも一足先に死んでいた。

カラスは男を斬り捨てた。

死体の下から血だまりが広がって、土に染みこんでいく。ひだの入った鏡のマントに、刀を持った自分の姿が歪んだ形で映りこんでいた。

アシュラムは帯から刀の鞘を抜いて、カラスに手渡した。

「その刀、おまえにやるよ」
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