10章 刃 (2/2) ~ 歪んだ鏡

「返さなくていいの?」

「いいよ。これで拭いてから鞘に収めろ」

カラスは渡された布切れで、思いがけず自分の物になった刀についた血を拭った。狐につままれたような気分だ。

「ありがとう」

鞘に収めると、とりあえずベルトをゆるめてねじこんだ。それからララのほうを見て言った。

「またなにか来ないうちに移動しよう。死体のそばにいるのも気分悪いしな」

カラスは眠っているララを起こさないよう、そっと抱きあげようとした。が、今度は触れられただけで目を覚ましてしまったので、よけいなものを見ないよう手でララの両目を覆った。

「アシュラムのこと殺さないで」

ララは男が死んだことを知らないので慌てている。

「だれも殺されたりしないよ」

「カラス? あれ、どうなったの? 鏡のマントの人は?」

か細い指で手探りして、助けを求めるように服をつかんだ。カラスはそんなララのことを、大切な宝物のように抱きよせている。

「悪い夢見たんだな」

「夢?」

「うなされてた」

「血の臭いがする。なんで目隠しするの?」

「いやらしいこと考えてたら鼻血が出た。かっこ悪いから見るな」

アシュラムは隣で二人のやり取りを黙って聞いていた。

「ねえ、アシュラム。本当?」

その声は不安げだった。カラスの言葉だけでは信用できなかったようだ。カラスはアシュラムに目配せした。

「本当だ。ドバドバ鼻血出してる」

アシュラムもそう答えた。

ララは目を覆われたまま、言われた通りに想像してクスクス笑った。